怪しげな日本製の英語が、多く横行している。その代表的なものが、「マンション」だ。英語で「マンション」というと、壮麗な大邸宅のことだ。
私は英語を生業にしてきたから、若者からしばしば「どうしたら、英語が上達するでしようか?」という質問を受ける。
暗記が一番よい。私は中学から高校にかけて、シェクスピアの『ジュリアス・シーザー』や、『マクベス』の台詞を暗記した。今でも、譜んじることができる。
“Come, gentle night. (略)Give me my Romeo, and when he shall die, I will cut him into little stars. He shall make the face of heaven so fine…”
「優しい夜よ、来ておくれ。私にロメオを下さい。もし、あの人が死ぬことがあったら、細く刻んで、夜の面(おもて)を満天の星のように、美しく飾りましよう‥‥」
『ロメオとジュリエット』のなかで、ジュリエットが露台に立って、独りでロメオを懸想する場面である。
“Oh! I have bought a mansion of love!”
「あゝ、わたしは恋のマンションを手に入れたわ!」と、台詞が終わっている。
これが、日本でいうアパートのマンションだったら、ぶち壊しだ。ましてや「恋のワンルーム・マンションを手に入れた」のでは、人情噺にもなるまい。
困ったことに、恥しい日本製英語が跋扈している。
前号で憲法を改める前に、自衛隊の階級や、兵科、装備などの擬い物の呼称を改めたいと提案したところ、自衛隊員や、OBから賛成する電話や、手紙が寄せられた。
自衛隊の英語の呼称であるJAPAN SELF-DEFENSE FORCESも、国際的に通用しない恥かしい例の1つである。セルフディフェンス・フォーセスからSELFを外して、JAPAN DEFENSE FORCEに正したい。
ディフェンスは、自衛を含んでいる。軍事用語で「セフルデイフェンス」といえば、部隊、基地、人員、施設の防護しか意味しない。
「セルフディフェンス・フォース」というと、国際的に判じ物だ。
英語でin selfdefenseといったら、「自己防衛」のことだし、selfdefense classesは、女性向けの柔道か、空手の「護身術講座」だ。「セルフディフェンス」では、国家、国民、領土を守る「国軍」のイメージが、伝わらない。これでは、軽くみられることになる。
私は外国の軍関係者から、何回か「セルフディフェンス・フォースというと、基地や、施設を守る部隊のことか?」と、質問されたことがある。きっと、保安隊が自衛隊になった時に、生半かな英語しかできない役人が、そう訳したに違いない。
戦後の日本は「専守防衛」とか、「国連中心主義」といった、内容がまったくない言葉は、英訳することができない。「専守」といっても、防衛するためには相手を攻撃しなければならない。敵から侵攻されたら、自国の領域の外で阻止したい。かつて攻撃的な兵器は許されないといって、F4戦闘機から爆撃装置を外したが、外国からF4JのJは“欠陥機”を意味すると、笑われたものだった。
国連は中心がない。中心がないものを、中心にしようとするのは、無理な話だ。
杜父魚文庫
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