いまや東京裁判の議論をやめよう、日本は大目標を抱け。安倍政権に欠けているのは世界的展望をもつ思想的哲学的主張である。
<<西尾幹二『憂国のリアリズム』(ビジネス社)>>
「こうなることは分かっていた」こうなる、とはどういうことか? それは米中の狭間に立たされる日本が「頼りにしていたアメリカがあまりアテにならないという現実が、やがてゆっくり訪れるだろうとは前から思っていた」と保守論壇の重鎮、西尾氏が述べる。
その通りになった。
アメリカは「尖閣諸島に日本の施政権が及んでいることを承知しているが」としつつも「尖閣の帰属に関しては関与しない」と言ってのけた。つまり中国がもし尖閣諸島を軍事侵略しても、アメリカは日本のために血を流さないと示唆していることになる。(もっとも、その前に日本が自衛しなければ何の意味もないが)・・・。
しからば、なぜこういう体たらくで惨めな日本に陥落したのか。
「そもそも原爆を落とされた国が落とした国に向かってすがりついて生きている」からである。日本は「この病理にどっぷり浸かってしまっていて、苦痛にも思わなくなっている。この日本人の姿を、痛さとして自覚し、はっきり知ることがすべての出発点、何とかして立ち上がる出発点ではないか」(49p)とされる西尾氏は、東京裁判史観の克服をつぎのように言われる。
「今さら東京裁判を議論する必要などない。東京裁判がどうだこうだと議論し、東京裁判について騒げば騒ぐほど、その罠に陥ってしまうからである。日本国民全員がより上位の概念に生きているのだという自己認識さえ持てば、それで終わるのである」。
「上位の概念」とは日本の伝統的思想、その宗教観である。
西尾氏は現下の危機の深化に関して次のように続ける。
「中国が専制独裁国家のままであり続けていて、しかも金融資本主義国家の産業形態をも取り入れるというこの不可解なカメレオンのような変身そのものが、厄介なことに『ベルリンの壁の崩壊』のアジア版ということだった」と或る日、西尾氏は気がついた。
そして氏の認識は嘗ての歴史のパターンを連想させる。
すなわち「『ベルリンの壁の崩壊』から『ユーゴスラビアの内戦』へのドラマがやっと危険なかたちで極東にも及んできたのだ。私は昨今の情勢から、あり得る可能性をあれこれ憂慮を持って観察している」
その憂慮の集大成が、この論文集となって結実した。
日本が直面する未曾有の危機を克服するために如何なる道筋が日本に残されているのか。奇跡のようにカムバックした安倍政権は、「歴史的使命」を帯びて、「中国共産党の独裁体制の打破」に挑むべきであり、そのために憲法改正は必須であると説かれる。
ついでながら評者(宮崎)は「アジア版ベルリンの崩壊後のユーゴ」は、中国が仕掛ける尖閣戦争の蓋然性よりも、むしろ中国内部の大騒擾、すなわちウィグル、チベット、蒙古の反漢族騒乱が活火山化することだろう、と見ている。
安倍政権で前途に明るさが見えてきたことは確かである。しかし「何かが欠けている」と西尾氏は嘆く。強靭化プログラムは良いにしても、なにが欠けているのか?
すなわち日本の深い根に生い立った、「思想的哲学的主張が見えない」。日本には「世界史的な大目標が必要なのである」。こうした基調で貫かれた本書の肯綮部分は、評者(宮崎)の独断から言えば第三章である。
つまり日本の根源的致命傷に関しての考察で、第一にGHQが消し去った日本の歴史である。氏は過去数年、GHQの焚書図書を発掘し、それらがいかに正しい歴史認識の元に日本の国益を説いてきたかを縦横に解説されてきた労作群があるが、日本人のDNAから我が国の輝かしい歴史が消えてしまえば、GHQの思い通りに「敗戦史観」『日本が悪かった』「太平洋戦争は悪い戦争だった」ということになり、まして「旧敵国の立場から自国の歴史を書く」という恥知らずな日本の歴史家が夥しく登場し、負け犬歴史観で武装し、「日本だけの過ちをあげつらう『新型自虐史観』に裏打ちされた、面妖なる論客がごろごろと論壇を占拠し、テレビにでて咆える惨状を呈したのだ。
要するに「戦後日本は『太平洋戦争』という新しい戦争を仕掛けられている」のだ、と悲痛な憂国の主張が繰り返されている。一行一行に含蓄があり、いろいろと考えさせられた著作である。
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読者の声 どくしゃのこえ READERS‘ OPINIONS 読者之声
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(読者の声)1.日米戦争の真の開戦事情:日本を知る女性歴史家ヘレン・ミアーズ女史は「戦前の外交記録を見れば誰もが米国が日本を圧迫し,日本が必死に回避しようとしたことがわかる」と名著「アメリカの鏡日本」の中で記しています。
一方、米国の歴史家モーゲンスタインは著作「真珠湾」で、「近代ではあらゆる戦争責任は敗者に負わせる習わしになっているので、開戦事情を調べることは喜ばれない」と記しています。これは欧米の知識人は日本の戦争が自衛戦争であったことを知っているという意味です。
実際日米の戦争映画は皆真珠湾から始まっています。ハルノートや対日貿易封鎖政策は隠蔽されています。
2.東京裁判の正体:これは米国のアジア政策を正当化するための史実と論理を欠いた宣伝芝居でしたが、米国のアジア政策が失敗したために急速に終わり解散されると二度と再開されませんでした。
大東亜戦争の原因は二つあります。
一つは独ソ戦に備えたスターリンの極東工作です。反共同士の日本と蒋介石を戦争させて無力化しました。これが支那事変です。
二番目は米国の19世紀以来の支那満州進出欲です。
満州に先行する日本を滅ぼしました。日米戦争です。しかしスターリンのヤルタ協定の違約で、取らぬ狸の皮算用におわり、逆に米国は大陸から追い出されました。そこで戦後の日本非武装政策は無駄になり,昭和25年ダレス国務長官が吉田首相に再軍備を要請したのです。
これと同時に日本軍人の処刑は終わりました。日本軍人を処刑しながら日本軍の再建を求めることはさすがに出来なかったからです。
東京裁判は米国の失敗した古い太平洋政策の奇怪な宣伝芝居であり歴史観ではありません。なぜなら原爆を含む史実の公開、公正な価値観、合理的な論理が欠けているからです。
3.宣伝と真実:イスラエルの大統領は「世界に憐れまれて滅びるより、世界を敵に回しても生き残る」と述べています。日本人は反日宣伝で殺されるのなら立ち上がるしかありません。
またイスラエルの知恵を応用すると、慰安婦宣伝問題は日本人も悪い。なぜなら正しい広報をしてこなかったからです。それは戦後日本政府が真に独立しておらず、虚構の反日宣伝に対して事実を否定せずに、謝ったから、金を払ったからなどとごまかしを続けてきたからです。これでは有罪を認めたことになります。方向が間違っています。政府の対外広報の基本姿勢を正すことが必要です。
日本の朝鮮併合は自衛のためなので正当です。
ロシアが朝鮮人を使って日本を攻撃占領する可能性があったからです。元寇の再現です。だから日本人は罪悪感を持ってはいけません。だいたい本国の存亡を欠けて超大国と経済植民地を争う国はありません。
4.対米広報の方針:米国には戦前の理不尽な反日宣伝が残っています。すなわちすべて日本人が悪いです。そこで戦後の記憶を上塗りすることが必要です。朝鮮戦争では大量の米兵が朝鮮人、支那人に殺されています。捕虜が拷問されています。
板門店では米兵が北朝鮮兵に斧で撲殺されました。ベトナム戦争でも多数の米兵がソ連、中共の支援する戦闘で殺されました。しかし日本人には殺されていません。そこで慰安婦問題の広報では朝鮮戦争やベトナム戦争の写真を掲載し、米国に戦後の冷戦の記憶をもっと宣伝する必要があると思います。(東海子)
杜父魚文庫
13294 書評『憂国のリアリズム』 宮崎正弘
宮崎正弘
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