<日米両国は6月末、米西部カリフォルニア州南部周辺空海域で、約2週間にわたる共同統合訓練「ドーン・ブリッツ(夜明けの電撃戦)」を終えた。海上自衛隊の艦艇に米海兵隊の垂直離着陸輸送機オスプレイが発着艦する映像に注目が集まったが、この訓練にはもう一つの大きなメッセージが込められていた。米中首脳会談終了2日後の6月10日、会談場所から90キロという目と鼻の先で実施した政治的な意味合いだ。
オバマ大統領との首脳会談で、米中両国が共存・共栄することを意味する「新型大国関係」の構築を呼びかけた中国の習近平国家主席に対し、「同盟国を置き去りにしない」という米国家安全保障問題担当のドニロン大統領補佐官(当時)の言葉を裏付ける米国の意思だ。習氏は会見で「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」と言ってはみたものの、同じ太平洋国家のカナダやニュージーランドまで参加した共同統合訓練の成功は、習氏に後味の悪さを残したのではなかろうか。
折しも米中首脳会談と同日の7日、東京ではニューカレドニアなど島嶼(とうしょ)を多く領有する太平洋国家として、オランド仏大統領が安倍晋三首相と共同声明を発表した。声明は中国を念頭に「新たな大国の台頭に伴って生じる新たな課題に対応する」と踏み込んだ。航行の自由など国際法の尊重を強調し、日仏防衛・外務閣僚級協議(2プラス2)の早期開催を確認した。フランスが太平洋国家として日本との安保協力を打ち出し、ともに中国を牽制(けんせい)した事実は重い。
むろん、これらの動きは偶然ではなく連動している。首相官邸を司令塔として、日米外交当局が綿密に練り上げた結果の必然であり成果である。米中、日仏という2国間の「線」だけを別々に見ていると気づかないが、自由と民主主義という共通の価値観を持つ日仏米、カナダ、ニュージーランドVS共産党独裁の異形の大国=中国という多国間同士の「面」で捉えれば、日本と同じ側に立つ太平洋国家が、中国とどう向き合おうとしているかが見えてくる。
その中国は東アジア地域で、軍事力や経済力を背景に「粗暴な大国」(仏紙ルモンド)として振る舞い、国際社会で地球温暖化対策や人権問題を指摘されると「発展途上国」だと言い逃れる。「G2(米中2国の枠組み)という幻想」(クリントン前国務長官)に見切りをつけた2期目のオバマ政権内には今や、中国と新型大国関係を構築できると本気で夢想している向きはいないのではないか。7月10日、米中戦略・経済対話を横目にワシントンで開かれたシンポジウムでは、中国について「だれもが米国の仮想敵国と思っているが、公の場では口にしないだけ」(米国防関係者)との声が出た。国際社会で責任ある行動をとれない未熟な大国との見方が主流のようだ。
そんな中国は、尖閣諸島国有化を口実にわが国が「戦後秩序へ挑戦している」(楊潔●・中国外相=当時)と各国に同調を呼びかけている。連合国側が戦後処理の基本方針を示した1942年のカイロ宣言や45年のポツダム宣言に違反するというのが論拠だ。だが、戦後の日本の領土を画定させたのは法的拘束力のない両宣言ではなく、国際条約のサンフランシスコ平和条約だ。中国の難癖には逐次反論する必要がある。
「わが国の戦後の平和国家のあり方を否定し、名誉を傷つける悪意に満ちた発言は受け入れ難い。中国は自国に同調する国はどこにもないことを認識すべきだ」。2012年11月、国際会議で斎木昭隆外務審議官(現次官)が楊外相にこう言った。大国の作法を学ぼうとしない中国は、他人を批判する前に自らが国際社会の厄介者であることにいい加減、気づいたらいかがか。(ワシントン支局長=ささき るい)●=簾の广を厂に、兼を虎に(産経)>
杜父魚文庫
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