<[ワシントン 18日 ロイター]密輸品を頻繁に扱い、壊れて沈むまで航行するとされる北朝鮮の船舶だが、老朽化が著しい同国船の基準からしても、未申告のキューバの兵器を積んでパナマ運河の通過を図った今回の拿捕事件は「危ない橋」だったと言える。
パナマ当局に先週拿捕されたチョンチョンガン号は、2009年にもウクライナで麻薬を積載しているのが見つかり、各国の捜査当局には知られた存在だった。同号の動きは、パナマ政府が拿捕する前から米当局が監視を続けていたという。
今や、船舶が北朝鮮の国旗を掲げているだけで、世界中の港湾当局や沿岸警備隊が警戒を強める。北朝鮮は世界で最も安全性の低い商船を航行させる国の1つとして知られ、約250隻ある船のほとんどが何十年も前に建造されたものだ。
各国が北朝鮮やその船舶の監視を強める中、チョンチョンガン号の事件は「死に物狂いと愚かさを伺わせる」と言うのは、ストックホルム国際平和研究所のヒュー・グリフィス氏。同氏は「カリブ海ほど船の臨検が行われる場所は世界にない。そこは米国の裏庭で、これまでも最も多くの臨検が行われている海域だからだ」と語る。
ある米情報当局者は、パナマ政府がミサイル部品やミグ戦闘機などの兵器を積んだチョンチョンガン号を拿捕するに当たり、米国から情報を得ていたと明かした。
アジア近海で鉄くずや飼料用穀物を運ぶことが多い北朝鮮船が西半球まで航行することは珍しいと言える。ロンドンのセキュリティー分析企業IHSマリタイムのリチャード・ハーレイ氏は「(北朝鮮の)貨物船は小さく、ほとんどの交易は北朝鮮周辺で行われ、母国から遠く離れた場所で確認されるのはまれだ」と話す。
チョンチョンガン号と35人の乗組員が、より気付かれにくい回り道ではなく、なぜパナマ運河を選ぶリスクを取ったのかはまだ分かっていない。
しかし、ミサイル修理との交換取引とみられる何トンものキューバ産砂糖を積載していたことから、北朝鮮が基本的な必需品をいかに欲しているかが見て取れる。
ハーレイ氏は自動船舶識別装置の情報と衛星データから、過去3年間で5隻の北朝鮮船がパナマ運河を通過したことをつかんだ。そのうちの1隻であるオウンチョンニョン号は昨年5月にハバナに停泊し、チョンチョンガン号と同じルートで母国とキューバとの間を直航したという。
ハーレー氏が捕捉した他の北朝鮮船はカリブ海周辺のほかブラジルにも航行していたが、特に変わった動きは見られなかったという。
<多くの転覆報告>
世界で売買される貨物船市場で、北朝鮮の船舶は最低ランクに位置付けられる。英クランフィールド大学の北朝鮮専門家ヘーゼル・スミス教授は、北朝鮮船について「多くの怪し気なディーラーの間で売買される欠陥車のように、所有者が頻繁に変わる」と話す。
スミス教授は、北朝鮮船の転覆報告は「しばしば」あると指摘し、「実際、沈没するまで航行させる」とも話す。昨年12月には貨物船「テガクボン」が沈没したが、今年に入って北朝鮮人とみられる6人の遺体が日本沿岸に漂着した。
同教授は2009年、国際貨物船のデータベースの情報を元に北朝鮮船に関する報告をまとめ、同国籍の船舶に十分な通信装置や救命道具が備わっていない場合があると指摘。また、中には航海に適さない船もあるという。
同報告の作成時点における北朝鮮貨物船の平均使用年数は29年で、スミス教授はその後も船が新しくなったとは考えにくいとの見方を示している。
北朝鮮で船舶を保有・運用しているのは中央政府ではなく、国や党、軍それぞれの部門に関連する貿易会社が所有をしている。今回拿捕されたチョンチョンガン号がどの部門の系列にあるかは分かっていない。
スミス教授は「北朝鮮では政府が全てを統制しているとされるが、経済の崩壊がかなり進み、政府が利益を得られるなら、国民に半合法または合法の商売が奨励されている」と語る。
北朝鮮船の乗組員は薄給で、麻薬や偽造たばこ、禁制品の密輸など、金のためにほぼ何でもやるという状況に追い込まれている。
2003年には、オーストラリア当局が貨物船「鋒秀号」からヘロイン50キロを押収し、乗組員が拘束される事件が発生。乗組員らはその後、裁判で無罪となり強制送還されたが、オーストラリア側の共犯者は禁錮刑を受けた。
パナマでの拿捕事件をよそに、スミス教授とグリフィス氏は、国連制裁で禁止されている核・ミサイル関連部品の移動が、空路のほかにも、外国船が知らずに積んだ偽装コンテナを使って行われているとの見方を示している。
北朝鮮船が摘発される偽バイアグラや禁制品のたばこといった積み荷のほとんどは、船員らが自分たちの生活のために金を得ようとするものだ。
グリフィス氏は「稼ぐためにやるべきことをやるという船長もいる。彼らは危険な船に乗った貧しい男たちだ」と語った。(ロイター)>
杜父魚文庫
13381 北朝鮮の老朽船が渡る「危ない橋」、拿捕事件で見えた実情 古澤襄

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