13441 書評『アングラマネー』  宮崎正弘

タックスヘブンからみた世界経済入門。空恐ろしくなる世界の闇経済の本質をえぐる異次元の経済学。
<<藤井厳喜『アングラマネー』(幻冬舎新書)>>
スイスの銀行はとうとう米国の恫喝を前に白旗を掲げた。老舗プライベート・バンクの「ピクテ」は株式会社になった。スイスは秘密口座の開示にふみきり、そうなれば顧客はスイスに預金する意味がなくなり、カネは中東へ逃げ出したのである。
ロンドンの「シティ」はLIBORの不正操作が次々と明るみに出て、巨額の罰金を米国に支払い、その独立性が揺らいだ。シティは事実上のタックスヘブンだが、中国の国債相場を創設して急場をしのぐものの落日が這い寄ってきた。
謎の金融機関「バチカン」銀行は秘密を知る幹部らの暗殺、怪死、毒殺などがつづき、イタリアのマフィア、チャイナマフィアが入り乱れての金融内戦が勃発、収拾の付かない状態となったうえ、不法移民を取り締まる方向にイタリア政治が舵取りを変えるや、各地のチャイナタウンで抗議デモが起こった。
キプロスはロシア富豪のタックスヘブンだったが、金融危機で預金封鎖となり、不正蓄財の多くが明るみに出た。ロシアの富豪は次のキャピタルフライトの仕向地を探す。
フロリダには中南米マフィアの脱税資金が集まっていた。バミューダ海域に蝟集するタックスヘブンも米国の情報公開要求を前に大きく揺らぎはじめた。
リヒテンシュタイン、ルクセンブルグなど欧州のタックスヘブンも上に同じ。なぜこうなったか?すべては2001年9月11日のニューヨーク「貿易センタービル」爆破テロである。
テロリストを支援する秘密銀行口座を暴き、預金を凍結するために強硬手段にでた米国は脱税の銀行預金を情報公開せよ、預金者リストをよこせと騒ぎ立て、爾来十余年を経て、世界の金融地図が大幅に塗り替えられた。しかしブーメランのように、米国内にも法人優遇策をとるデラウェア州など事実上のタックスヘブンがあり、これにもメスを入れざるを得なくなって、因果応報となりつつある。
しかし、最悪の因果応報は、リーマンショックを引き起こす直接原因を自らつくったことである、と藤井氏は言う。
「取り締まりが強化されたため「国際的なアングラマネーの米金融市場への流入が滞り出したことが、アメリカの住宅バブル(サブプライムバブル)の崩壊を促し、さらにそれが2008年9月のリーマンショックへとつながっていったのである。それほどタックスヘブンとそこで暗躍するアングラマネーの力は巨大なものとなっていた」
となると、闇のカネは次ぎにどこへ向かうのか?
「世界のタックスヘブンに存在する預金の総額は現在、約32兆ドル、その内、個人の富裕層が所有している預金は約15兆ドルと推定されている」(15兆ドルとは米国のGDPと同額である)
本書はかくのごとく、世界経済を裏側からみた異次元経済学の肯綮である。
杜父魚文庫

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