<エジプトで14日発生した政府軍と反政府のモルシ前大統領支持派グループの衝突は15日もその余波が続き、国内各地の死者数は600人を超え、アラブ圏内で最大の人口を数える同国での両派の怒りと政治的亀裂が一段と深まった。
14日に政府軍がモルシ派のムスリム同胞団の座り込み抗議行動の強制排除に出て衝突が起きた首都カイロは、15日早朝の段階では騒乱がひとまず鎮静化していた。しかし、日暮れとともに発令される外出禁止令を前に、同胞団指導部が抗議行動の再編を指示し、再び新たな衝突の危険性が高まった。禁止令発令1時間前の午後6時の段階で、同胞団支持者らは、カイロの抗議拠点であるイマン・モスク前に集結している。
さらに、住民行動の厳しい制限を実施したにもかかわらず、エジプト政府軍が各地の抗議行動を十分に制圧できていない兆候も出ている。15日午後にはカイロ郊外に位置し、前日には2つある抗議拠点の1つをエジプト軍が強制排除したギザ地区では、首長の執務する役所の建物に反政府派が放火した。
国営テレビ放送は、この放火を「同胞団分子」の仕業としたが、その根拠は示さなかった。また、エジプト第2位の都市であるアレクサンドリアでは15日、前日の流血騒動に抗議する親モルシの集団がデモを行った。
エジプト保健省によると、14日だけで国内各地の死亡者は638人、負傷者は3994人に上った。「アラブの春」で政権交代にもつながった騒乱から2年以上経つが、1日の死傷者数としては最大となった。
イブラヒム内相は、一連の衝突で43人の警察官が死亡したと発表した。デモ隊の2カ所の強制排除ではなく、各警察署に対する反政府派の襲撃の中で死亡した警察官がその大半を占めたとしている。内相によると、国内の7つの教会が襲撃されたという。
政府が発表した死者数は14日遅くの発表時点と比べ15日の発表数は2倍近くとなったが、依然、この数については、政府、反政府派の主要対立点になっている。
モルシ前大統領支持者らは、政府発表数は病院で確認された死者数しか数えていないとして、実際の死者数ははるかに多いと主張している。ムスリム同胞団は15日、カイロ周辺のモスクに数十人の遺体を埋葬のために安置したが、モスク関係者は、これらの遺体は市当局、国営モスク、病院などで受け付けてもらえなかった死者のものだと語った。
前大統領を軍が追放した結果できた現在のエジプト暫定政府は、14日に非軍事色のシンボル的なエルバラダイ副大統領が辞任し、モルシ氏の追放を支持した世俗派の政治家も軍による政治支配が終わらないのではとの懸念を強めている。
エジプトの主要同盟国である米国との関係も15日、一段と冷え込んだ。オバマ大統領が、一連の権力行使と軍の非常事態宣言の発令を非難し、合同軍事演習も中止したためだ。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
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