宮崎正弘さんが四月に「ジョン・ケリー国務長官でアメリカ外交は大丈夫か? 」と論じていた。杜父魚ブログの九月一日の、よく読まれている記事ベスト・テンにこの論評があらためて読者の関心を呼んでいる。
八月三十一日、オバマ米大統領はホワイトハウスで声明を読み上げ、シリアのアサド政権が化学兵器を使って自国民を殺害したとして、「米国は軍事攻撃をするべきだと決断した」と述べた。
いよいよ軍事介入か、と思わせる大統領声明だが、「武力行使について米議会の承認を求める」と米議会に武力行使の是非をはかるとトーンを落としている。その米議会は九月九日まで休会中だという。
何となく気が抜けたビールのような大統領声明。英議会が軍事介入を否認したイギリスのように米議会も否認することもないとは言えない。少なくとも米議会の”お墨付き”が欲しいという魂胆がミエミエではないか。
たしか国連や議会の承認がなくとも軍事行動を決断する権限が米大統領にあると勇ましかった筈である。とくにジョン・ケリー国務長官はオバマ大統領よりも勇ましい発言が目立っていた。
前任者のヒラリー・クリントン国務長官より覇気がなく、動作が弱々しいと悪評に包まれていたケリーが、ここにきて一転して軍事介入に積極的なタカ派ぶりである。
ケリーは欧州へのがれたユダヤ人・アシュケナージで、祖父の代に米国に帰化している。そのDNAから国務長官就任後、まっさきに飛んだのはイスラエルとエジプトであった。
さらにはベトナム戦争で勲章三回も受けた歴戦の勇士だったのが、除隊後はベトナム反戦運動に積極的に荷担してきた平和主義者に転じた。
またケリーは尖閣問題には関心を寄せている形跡が希薄で、その半面、中東に寄せる関心が突出している。アシュケナージの出自のせいなのだろう。宮崎氏が指摘したようにケリーでアメリカ外交は大丈夫なのかと危惧を抱いている。
■ジョン・ケリー国務長官でアメリカ外交は大丈夫か? 宮崎正弘
アシュケナージの出自、ベトナム戦争反戦運動という不名誉な履歴。ジョン・ケリー新国務長官は訪日前に北京に寄って習近平、李克強ならびにカウンターパーツの王毅外相と会談した。おもに北朝鮮の核問題で中国の強い協力を要請した。
しかし長旅に疲れたわけでもないだろうに全体に覇気がなく、動作が弱々しく、画像をみていると北朝鮮問題での北京の介入におおきな期待を寄せていることが分かる。
ひょっとして前任者ヒラリー・クリントンほうが鷹派で、ケリーは対中恐怖論者ではないか。というのも、北朝鮮の横暴、でたらめの暴力的振る舞いでマスコミは振り回されつつ、例によって大事なニュースの報道を軽視した。
ベトナムである。
中越戦争を経験している両国は、ベトナム戦争直後、アメリカ軍から奪い取ったりした近代的兵器を保有したベトナムが中国に勝った。しかしそれから三十年、中国は狂気の軍拡を成し遂げ、その軍事費はベトナムの四十倍! (ドルベースで中国は915億ドル、ベトナムは26億ドル)。
これでは軍事衝突がおきても勝負はみえている。それでもベトナムは健気にナショナリズムを鼓吹し、中国との対決姿勢に躊躇はない。問題はあまりにも劣化した海軍力では中国の侵略に対抗できないことである。
中国は心理戦争では激しくベトナムを刺激している。中国製の地図にはベトナム領土の一部の島嶼が中国領に編入されている。
両国は「交渉による平和解決」を目ざすと共同コミュニケを発表しているが、2011年以後、一度の話し合いはもたれず、ベトナムのネット世論は完全に反中国である。
すでに中国は海南島に14000隻の漁船を登録し、3万5000人の漁民が待機している。ベトナムは「この多くは漁船ではない。軍人の隠れ蓑である」と批判している。
▼中国戦とベトナム船が銃撃戦
3月7日、中国は新しい漁業計画を発表した。3月10日には三沙市から三隻の海洋監査船を出航させベトナム沖に現れた。3月25日にベトナム漁民の「乱獲」と因縁をつけ、中国船とベトナム船との間に銃撃戦があった。
他方、中国の対越貿易はベトナムが、実に104億ドルの赤字。中国は禁輸措置を講じて、心理的にベトナムを脅す手段をもっている。
かつてレアアース禁輸で日本を脅し、あるいはバナナ輸入を禁止してフィリピンを脅した。この影響で日本とフィリピンに中国人観光客は激減した。
ともかくベトナムは共産党独裁の一点で中国とは共通しており、ブログやネット世論では中国に対して熱烈な批判と愛国的ナショナリズムが謳われているものの、ベトナム政府は、中国を批判するデモを許可せず、弱腰である。海軍力の劣悪レベルがあるため、つねに防御的なのである。
ケリーはこの問題に関心を寄せている形跡が希薄である。ベトナムの苦境をペンタゴンは梃子入れしているが、肝心の外交を司る米国務省が消極的なのである。しかもベトナム反戦運動の闘士だった男が、アメリカ外交のトップに座ったから問題はややこしいのである。
ジョン・ケリーは、なんとなく大物議員といわれた。それも上院外交委員長経験、大統領選挙(2004年)ではブッシュ・ジュニアと闘って惜敗した経緯もあり、民主党政治のシニア重視という土壌にあって、もし、ケリーが国務長官を望めば、オバマとしては指名せざるを得ない仕組みと雰囲気だった。
さてケリーは、じつはベトナム戦争で勲章三回、歴戦の勇士、名誉の負傷それも重傷を負っており、大統領選挙では十分な「資格」があったのである。
▼ベトナム戦争に従軍し名誉勲章も受けたケリーだったが。。。
ところが、彼自身がその輝かしい軍功と勲章を投げ、誇りをぶちこわした。
つまり除隊後、ケリーはベトナム反戦運動に積極的に荷担し、共和党マケインのようにベトナムの囚われていた本物の強者からみれば軟弱、信念がない、金持ちの火遊びなどと批判された。
大学時代のかれはブッシュと秘密結社スカルアンドボーンズで同席したし、しかもブッシュ家とジョン・ケリー一家は遠戚でもある。
ジョン・ケリーの祖父はアシュケナージである。母がフランス系で、このためケリーはスイスでも暮らしたことがあり、フランス語が流暢。
アシュケナージとは欧州へのがれたユダヤ人のことを意味し、祖父の代にアメリカへ渡り、カソリックに改宗した。
そのDNAから、かれが国務長官就任後、まっさきに飛んだのはイスラエルとエジプトであり、その出自からしても、またアメリカの伝統的なイスラエルへの加担ぶりからみても、ケリーの活躍の場所である。しかしアジア方面は暗く、興味も薄く、活発な姿勢がなにも感じられない。
ケリーは尖閣諸島に関して「どちらに帰属するかは米国は干渉しないが、日本の施政権が及んでいることは明か。この現状を一方的に変えようとするいかなる試みには反対である」といかにも抽象的表現だが、尖閣が急襲されても米軍は護らないと言外に言っているのである。
南沙、西砂、東沙は、すでに一部の島嶼を中国が侵略したままである。尖閣はまだ軍事占領されていないが、日本が油断したら必ず軍を「偽装漁民」として軍人を上陸させるだろう。
北京もすでにケリーの訪問を受け、その頼りない外交力を把握したことだろう。(杜父魚ブログ2013.04.15 Monday name : kajikablog)
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13803 頼りないケリーの米外交力 古澤襄

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