13847 書評『日本と台湾――なぜ、両国は運命共同体なのか』  宮崎正弘

尖閣諸島奪取と台湾攻撃はセット。日台は中国脅威論を共有.日本にとって台湾ほど大切な国があろうか、諄々とユーモラスに説諭。
<<加瀬英明『日本と台湾――なぜ、両国は運命共同体なのか』(祥伝社新書)>>
台湾が中国の一部でないことは火を見るよりも明らかである。事実上、台湾は一個の独立国家である。しかし世界的に孤立し、国際社会ではあたかも存在しないように扱われている。中国の政治謀略が成功した例である。
日本のとった台湾への仕打ちは忘恩的で冷酷だった。
田中角栄外交の大失敗は日本の外交史に汚点を残した。米国はニクソン訪中後もすぐに北京とは国交を回復してはおらず、ようやくカーター政権になって、「台湾関係法」を制定したうえで、北京と結んだ。
このため台湾は中国の魔手に直接脅かされることになる。
著者の加瀬英明氏は台湾へ渡航すること五十回、大の台湾贔屓だが、観察は冷静かつ客観的である。そのうえ外交論文でも、ユーモラスな文章を駆使されるので、深刻な事案もときに滑稽に、あるいはなぁんだ、そんなことか、と思うほどに輻輳した事情が簡潔に解きほぐされる。
日本と台湾が『運命共同体』というのが本書の肯綮だが、理由を次のように列挙している。
第一に尖閣を中国に軍事的に脅かされる日本と、軍事的に飲み込まれようとしている台湾の安全保障上の危機が連動していること。
第二にお互いが『占領憲法』をいただきながら国内の売国奴らによって妨害され自主憲法の制定がすすまない境遇も似ている。日本の占領憲法はGHQがおしつけたが、台湾の現行憲法は外来政権がもたらし、ともに国家の前途を暗くしている。
第三は軍隊の存在がアメリカの補完部隊という位置づけが共通している。
しかし台湾のほうに日本精神が高く残っており、独立精神は旺盛である。日本はまだ去勢された中性男子のように、日本は中国の属国に甘んじたほうが幸せというアホがなんと駐北京大使となる体たらくだった。
しかし庶民は異なる反応を示し、民間交流は盛んである。姉妹都市も増え、台湾からの旅行者は中国より多い(人口13億と2300万の国で、台湾からの観光客のほうが多いということは、ひとりあたりに直すと数百倍の親日度になるだろう)。
個人的なことを付け加えると評者(宮崎)と著者は四十数年の交友関係、加瀬さんは兄貴分である。最初にふたりで台湾へ取材に行ったのは1973年、雑誌『浪曼』で、「日華断交一年の悔恨」という特集号のためだった。以後、台北のホテルで、居酒屋でばったりという体験が二回ほどある。
ともにお世話になった『美しい日本語を台湾に残す運動』の友愛グループも、最初の訪問時、藤島泰輔氏から紹介を受けた陳燦暉氏との出会いからで、そのことも本書では語られている。
台湾独立運動のカリスマ膨明敏の台湾脱出については、台湾で当時かかわったアメリカ人の回想がでたので、加瀬氏は、それに準拠されているが、パスポート写真の張り替えのため台湾へ潜り込んだ日本人を「K」とされている。おそらく、アメリカ人の原書がまだ匿名だからであろう。しかし日本ではとうに宗像隆幸氏らの著作で本名がでており、しかも数年前に、そのすりかえの役を果たした日本人が訪台して当該膨明敏とにっこり会見、その模様も実名入りで大きな写真とともに自由時報が報道した。
あまりにも身近で郷愁の強い台湾を独特のタッチで描いた本ゆえに精神的安堵を覚える箇所も多く、すらすらと読めた。台湾が大好きな人、李登輝総統ファン、必読である。
杜父魚文庫

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