■アベノミクスの起爆剤に
<[東京 9日 ロイター]週明けの東京市場は、2020年夏季五輪の東京開催決定で「祝賀ムード」に包まれている。足踏み感が出ていたアベノミクスの起爆剤になりうるとの期待から、株買い・円売りが先行。
シリア情勢や米量的緩和縮小など海外の不透明要因が強く、売買一巡後は利益確定の売買に押されているが、東京五輪が規制緩和や成長戦略の突破口となれば、海外勢の日本株買いも再開するとみられている。
<経済波及効果への期待は「皮算用」>
日本株市場ではひとまず、インフラ投資の活発化や経済波及効果に期待する買いが入った。日経平均.N225は300円を超える上昇となり、8月6日以来、約1カ月ぶりに1万4200円台を回復。ドル/円も株高を好感し、朝方は一時100円台に乗せた。
東京の2020年オリンピック・パラリンピック招致委員会の試算によると、五輪開催による全国の経済波及効果は、施設建設や地価上昇により20年までの7年間で約3兆円。付加価値誘発推定額の1.4兆円はGDPを7年間で0.3%程度しか引き上げない規模だが、老朽化したインフラの更新などが進めば、波及効果はもっと大きいとの指摘もある。
しかし、大規模なインフラ投資には、それに応じた財源が必要だ。財政問題を抱える日本は大盤振る舞いというわけにはいかない。日銀の大量国債購入で円債金利は低く抑えられているが、五輪に便乗するような無駄使い投資が紛れ込むようだと、「ギリシャの二の舞になりかねない」(シンクタンク系エコノミスト)危険がある。経済波及効果も過去の五輪開催国をみれば、その国の事情や情勢で大きく変わる。皮算用は所詮、皮算用だ。
株価の押し上げ効果も、過去の例では総じてポジティブだが上昇率はまちまちだ。過去の例をどこまで含むか、期間をどこにとるかでかなり変わってくる。サンプル数がそれほど多くない五輪の記録を平均して当てはめようとしても、経済やマーケットの状況や背景も全く違うのだから、土台、無理がある。英国ブックメーカーの事前のオッズでは、東京がトップであったことから、「サプライズではない」(外銀)との声も多い。
<千載一遇のチャンス>
しかし、東京五輪への市場の期待が小さいわけではない。むしろ、バブル崩壊以来、日本に吹いていた逆風が追い風へと変わる吉兆だと受け止めている。投資家が期待するのは、直接的な経済波及効果よりも、五輪決定を千載一遇のチャンスとして、これまで抵抗が強かった分野の規制緩和や成長戦略が前進するのではないかということだ。
「デフレや社会保障など日本が抱える問題は、世代間のギャップが大きかったが、オリンピックは全世代が共有できる目標だ。2020年までに何が必要かということが共通認識になれば、構造改革や規制緩和、成長戦略の突破口になりうる」とニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は期待する。
日本には、国と地方のプライマリー・バランス(基礎的財政収支)赤字対GDP比は、2010年度の水準から2015年までに半減させ、五輪開催の2020年度までに黒字化するという目標がある。構造改革と成長戦略の両輪がうまく回れば、達成困難との見方もある同目標をクリアできる可能性も高まる。
日本株は利益確定売りに伸び悩む場面もあったが、崩れることなく、上値追いの様相をみせた。市場では「海外勢はいったん五輪関連株をはずそうとしているが、ポジションが軽くなれば、再び日本株買いに向かう可能性が大きい。五輪のインパクトは大きくわかりやすい。海外勢も資金を日本に向けやすくなる」(大手証券トレーダー)との声も出ている。
<オリンピックだけでは足りない>
東京証券取引所がまとめた2市場投資主体別売買内容調査によると、海外投資家は8月に日本株を1194億円売り越した。月間トータルでの売り越しは2011年9月(149億円)以来、11カ月ぶりだ。アベノミクス相場では初めてとなる。「物足りない成長戦略や消費増税の混迷で、アベノミクスは足踏みしていると海外勢は受け止めている」(外資系証券)という。
シリア情勢や米国の量的緩和縮小など海外要因は不透明感を増している。「8月米雇用統計は非常に悩ましい結果となった。非農業部門雇用者数が思うように伸びない一方で、労働参加率の低下で失業率が低下している。米雇用情勢の判断は難しい」(三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏)という。グローバル経済の不透明感が強いなかで、海外投資家の目を日本に向けさせるには、相応のアピールが必要になる。
HSBCの香港在住の日本担当エコノミスト、デバリエいづみ氏は、海外投資家が日本株投資を再開するにはオリンピック開催決定だけでは足りないと指摘する。「五輪の経済効果はそう大きいものではない。10月からの臨時国会が重要だ。五輪決定の勢いに乗って、消費増税を決定する一方で、規制緩和や法人税減税など大胆な政策を具体化することができれば、海外投資家も日本は本当に変わったとみるだろう」と話している。(ロイター)>
杜父魚文庫
13893 東京五輪決定で市場も祝賀ムード 古澤襄

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