13931 公明代表が集団的自衛権で軟化の兆し  杉浦正章

■ワシントンで党首会談を提唱
集団的自衛権の憲法解釈変更に真っ向から反対だったはずの、公明党代表・山口那津男が、ワシントンで「帰国後党首会談」と言い出した。集団的自衛権歓迎の米国の空気を知った上で、連立決裂のための党首会談を提唱することはあり得ない。恐らく集団的自衛権に“歯止め”をかけるなど条件闘争に転ずる兆候ではないか。
山口は本当に米政府が集団的自衛権を求めているのかを確認して、求めていなかったら、これをてこに首相・安倍晋三を思いとどまらせようという“魂胆”であったが、どうもこれが外れたようだ。ミイラ取りがミイラの様相なのである。
シリア問題で目がつり上がっていた米政府高官も、ロシアの斡旋で一段落の流れが見えたようで11日は国務省でバーンズ副長官が山口と1時間会った。これに先立つ10日には国防長官首席補佐官・リッパートと会談した。
リッパートは「日本が集団的自衛権の行使を解禁し、国際社会でより積極的な役割を果たすことを米政府は歓迎する方向だ」と米政府の立場を鮮明にしている。
山口は「この問題は慌てずに議論することが大事だ」と、改めて慎重な姿勢を示したが、リッパートは面食らったはずだ。決めるのは安倍であってリッパートではないからだ。山口は言われっぱなしでは国内向けに格好が付かないため、創価学会向けに発言したのだろう。しかし、米政府の明確な方針を改めて直接聞いたことは、胸に響いたようだ。
 
その後同行記者団との懇談で従来の集団的自衛権問題への“極左も真っ青”な反応を転じて、安倍との党首会談に踏み込んだ。「連立与党だから、合意形成に努めるという姿勢があるべきだ。それがないと国民も同盟国も不安に思うだろう」と述べたのだ。
参院選の最中に「断固反対」と述べ、党幹部らには「皆さんは集団的自衛権のことで連立を離脱したくないでしょうねぇ」と連立離脱の可能性までほのめかしていた態度は急変である。
自公党首会談については幹事長・石破茂も近く党首会談が実現するとの見通しを示し、「協議をいつスタートさせるかは党首会談にかかるところが大きい」と指摘している。要するに党首会談を集団的自衛権に関する自公協議をスタートさせる入り口にしようというものだ。
安倍は基本的には年内にもこれまでの政権が維持してきた「集団的自衛権については国際法上は保有するが、憲法上は行使不可」との憲法解釈の変更を閣議決定する方向だ。集団的自衛権の行使は、自衛のための必要最小限度の実力行使に含まれる方向を打ち出すものとみられる。
既にそのための環境整備は整いつつある。辞任で抵抗しそうな内閣法制局長官を更迭、解釈変更論の小松一郎に差し替えた。そのための理論武装を整える安保法制墾も近く再スタートさせ、結論を受けた上で年内に閣議決定する防衛計画の大綱に反映させる。
同時並行的に国家安全保障戦略を策定するための「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・国際大学学長・北岡伸一)の初会合を12日に開催する。同懇談会は包括的な安保政策をうち出す方針である。
北岡はNHKとのインタビューで集団的自衛権の行使について、「結束していれば個々の国が襲われる可能性が低く、個別的自衛権はよいが集団的自衛権はだめだというのは、最初から間違った考え方だ」と述べている。安倍がとりまとめを求めている「国家安全保障戦略」に集団的自衛権の行使容認を盛り込む提言にしたい考えであろう。
このように安倍は既成事実をどんどん固めており、通常国会には関連法案を提出する流れである。まるで公明党の存在を無視するかのような展開である。安倍には中国と北朝鮮の軍事圧力に対抗するには、憲法改正を待っている余裕はないという判断がある。
第1次安保法制墾が提出した報告書が強調した「先例墨守や思考停止の弊害に陥ることなく、憲法規定を虚心坦懐(たんかい)に見つめ直す必要がある」という路線を推進しようというわけだ。極東の環境変化に対応できていない憲法解釈を後生大事に守っていられる時ではないというのが安倍の腹だろう。
野党も維新共同代表・橋下徹が10日、「時代や状況とともに憲法解釈が変わるのは当たり前だ。今の国際情勢からみれば、認めないといけない」と述べ、憲法解釈の見直しを容認する考えを示したことは大きい。これに民主党内右派の同調を得て、場合によっては公明党抜きでも不自由しない状況を作り得るからだ。
山口はこの時期の訪米を、自らの「断固反対」発言で振り上げた拳の降ろしどころを模索するための方便として設定したのだろう。山口は米国で「両党間で接点を見い出せるかは分からないが、一番足りないのは、これまでの考え方を変えようとする側の主張や論証だ。最終的に、国民が理解できるかどうかが必要条件だ」と述べている。
本当は「国民が理解できるかどうか」ではなく「創価学会婦人部が理解できるかどうか」の説得材料が欲しいに違いない。
したがって安倍は山口の「条件闘争」を実現可能にすることも考慮に入れる必要がある。地球の裏側まで米軍に付いていって、戦争に参加するような誤解を解かなければなるまい。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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