13966 国際世論の高まりがシリアへの軍事介入を拒絶  古澤襄

スイス・ジュネーブで行われたケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相で、シリアが保有する化学兵器を来年半ばまでに完全廃棄するとの目標で合意した。このこと自体は軍事介入による中東情勢の混乱を回避する意味で大きな前進なのだが、シリアにおけるアサド政権と反政府勢力の内戦状態が終結したわけではない。
欧米メデイアの論調をみると、軍事介入も辞さないアメリカの態度がシリアの妥協を引き出したとする見方が浮上しているが、まさに手前味噌の解釈といえる。むしろ軍事介入を拒絶する国際世論の高まりにアメリカ外交が方針転換を迫られたということではないか。
付言すれば、事態は紛争解決の一里塚に過ぎない。シリア情勢について杜父魚ブログは多くのページを割いてきたが、中東の石油にエネルギー資源の九割を依存している日本は対岸の火事ではない。そして紛争が根本的に解決する道はまだ見通せない。
すこし逆説的な言い方になるが、軍事的な大国は外交が不得手といえる。戦後のアメリカ外交をウオッチしてきた率直な感想であるし、いまの中国がこの傾向を帯びている。外交で懸案を解決する努力を惜しみ、軍事行動で押し切ろうとする。
こんどのシリア問題でアメリカが限定的といいながら、地中海東部に米鑑を終結し、トマホーク数十発をシリアに打ち込み屈服させようととした。まさに19世紀的な”砲艦外交”そのものではなかったか。
対照的だったのは、ソ連時代には軍事偏重だったロシアが外交力によってアメリカの試みを阻止しようとした。それだけロシアはソ連の時のような軍事力を保持しえなくなった現実を反映している。これもロシア外交の勝利と位置づけるのは短絡的である。
ケリー米国務長官は、ロシアは本気でシリア擁護には動かないと発言していた。ロシアの外交力を過小評価していた。もっと過小評価していたのは、米政府の強硬方針に米国民の多数が背を向けたことの認識が欠如していたことであろう。英議会が軍事介入に反対の議決をした時点でケリーは方針転換に踏み切る必要があった。
ユダヤ系米人のケリーは、いまここでアメリカがシリアに軍事介入する姿勢をみせなければ、イスラエルは遠からずイランに単独でも軍事攻撃にでると判断したのであろう。シリアへの軍事介入は、イシラエルのイラン攻撃を予防し、イランには核武装を許さない米国のサインを伝える狙いがあった。
アメリカと軍事対決する力が欠けるロシアは、シリアやイラクにS-300(С-300、NATOコードネーム:SA-10 「Grumble」およびSA-12A/B 「Gladiator/Giant」。艦載型はSA-N-6 「Grumble」)を供与すると動いた。
Sー300はアメリカのパトリオットに相当するロシア連邦軍の現用のミサイルシステムで、迎撃率が高い防衛型兵器である。亜音速のトマホークに迎撃率は高い。
シリアにとっては、攻撃兵器の化学兵器を放棄してもSー300のミサイルシステムを手に入れれば、悪くないバーター取引になる。ロシアは本気でシリア擁護に回らないとみていたケリーにとって最初の誤算となった。
黒人大統領のオバマは、もともとイスラエルには深入りしてしていない。軍事や外交よりもオバマは内政偏重の姿勢が顕著でいち早く軍事介入から距離を置きだしている。
象徴的なのはジュネーブの米ロ外相会談をみて、オバマ大統領は10月6─12日にインドネシア、ブルネイ、マレーシア、フィリピンを歴訪すると発表した。鮮やかな?変わり身の早さをみせている。
オバマはインドネシア入りして環太平洋連携協定(TPP)協議の参加国首脳と会談、同国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会合に出席する。シリアよりもTPPというわけである。
英ロイターは今週実施した世論調査から、米国民の75%がシリアの化学兵器を国際管理下に置くことで解決を目指す国際社会の取り組みを支持していると報じた。軍事介入よりも外交的解決を米国民の大多数が望んでいた。
<[ワシントン 13日 ロイター]ロイターとイプソスが今週実施した調査から、米国民の75%がシリアの化学兵器を国際管理下に置くことで解決を目指す国際社会の取り組みを支持していることが明らかになった。
今週3日間かけて776人を対象に実施した調査では、シリア情勢の外交的解決に反対したのは25%にとどまった。
シリアでの化学兵器使用に対応することが米国の国益と回答したのは33%で、約47%が国益ではないとした。9―13日に1386人を対象に実施した調査では、約62%がシリアに介入すべきでないと答えた。
米政府とオバマ大統領のシリア情勢の対応に満足していると答えたのは35%程度で、65%は不満と回答した。2週間前は満足との回答が41%、不満は59%だった。(ロイター)>
杜父魚文庫

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