尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖で、海上保安庁の巡視船に体当たりした中国船の船長が超法規的に釈放されて丸3年となった24日付の産経を読み、あの日の怒りと失望がよみがえった。当時の仙谷由人官房長官が菅直人首相の意向を受け、船長を釈放するよう法務・検察当局に働きかけたことを明かしていたからだ。
あの時、彼らは国民に何と言っていたか-。
「検察当局が国内法に基づいて粛々と判断した結果だ」(菅氏)
「了としている。検察官が総合的な判断のもとにどうするかを考えたとすれば、そういうこともあり得るのかなと」(仙谷氏)
二人とも、検察に船長釈放の責任をおっかぶせて逃げていたが、仙谷氏はこれが「真っ赤な嘘」であることを事実上、認めたのだ。
検察は当時、大阪地検特捜部の押収資料改(かい)竄(ざん)事件で追い詰められており、首相官邸の圧力には抗しきれなかったのだろう。
3年前の24日、那覇地検の次席検事が船長釈放を発表する記者会見で「日中関係を考慮」と不快そうにコメントを読み上げていたのも忘れられない。「この事件以外に(検察が)外国との関係を考慮した例は承知していない」(当時の西川克行法務省刑事局長)という無理筋の話を押し付けられたのだから当然である。
一方、船長釈放は「地検独自の判断」と繰り返した菅氏は、この直後に始まった秋の臨時国会の所信表明演説ではこう説いていた。
「国民一人一人が自分の問題としてとらえ、国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開していかなければならない」
国民に本当のことを知らせず、海保が即日公開する予定だった中国船衝突映像まで隠蔽(いんぺい)しておきながらこんな「ご高説」を垂れるのだからあきれるしかない。
もっとも、菅氏や仙谷氏の言葉が真実からほど遠いことは、多くの国民も直感していた。この年10月の時事通信の世論調査では、船長釈放は検察独自の判断だとする菅政権の説明に対し、79・9%もの人が「信用できない」と回答した。
外務省幹部も当時、筆者にこう証言していた。
「元凶は菅首相だ。首相が中国の圧力にベタ折れし、船長釈放を指示した。それを仙谷氏が処分保留で釈放などと理論武装した」
このときの国会では、予算委員会の質疑の大半が、船長釈放をめぐる経緯の追及に費やされたが、二人は頑として自分たちの「嘘」を認めようとしなかった。
そしてその「嘘」を正当化するためか、菅政権は12月には、ある異様な政府答弁書を閣議決定した。
それは閣僚が国会で虚偽答弁しても、政治的・道義的責任が生じるかは「答弁の内容いかんによる」というものだった。内容次第では、閣僚が国会で嘘をついても何ら問題はないというのである。そんな政府をどうして信用できようか。
「私はいまだにあの時のやり方、やったこと、すべて正しかったと思う」
仙谷氏は、昨年1月の講演ではこう語った。主権者たる国民をとことんバカにしていなければ、こんなセリフは吐けない。(産経政治部編集委員)
杜父魚文庫
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