■官邸の意向、渋る宮内庁押し切る
2020年東京五輪開催が決まった今月7日のアルゼンチン・ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、高円宮妃久子さまがスピーチをされてから3週間が過ぎた。「招致実現に大きな役割を果たされた」と各方面で高く評価されたが、宮内庁は「招致活動には政治的側面があり、皇族はお関わりにならない」との立場で、当初、慎重論が強かった。それでも、なぜ久子さまのスピーチは実現したのか。舞台裏を検証した。(菅原慎太郎)
■文科相が直談判
「久子さまに総会でご登壇いただくしかない」今年7月3日、スイス・ローザンヌで行われた五輪開催計画の説明会に赴いた東京都の猪瀬直樹知事は、こう考えていた。
説明会では東京のほかイスタンブール、マドリードがIOC委員を前にプレゼンテーションをしたが、注目を集めたのはマドリードへの招致を訴えるスペインのフェリペ皇太子だった。
東京が対抗するための切り札。猪瀬知事にとってそれは、スポーツ振興に尽力し、IOCなど国際的に人脈が広い久子さまのお出まししかなかった。
「大臣が宮内庁長官にお会いしたいと言っている」
8月26日午前、文部科学省側から宮内庁に連絡が入った。ブエノスアイレスへ久子さまが出発される8日前だ。文科省とは「久子さまの現地でのご活動はIOC委員との懇談などに限る」という形で決着していたが、宮内庁幹部は「大臣が来るからには何かある」と直感した。
同日午後、宮内庁長官室を訪れた下村博文文科相は、風岡(かざおか)典之長官、山本信一郎次長を前に東京招致の微妙な情勢を話し、こう切り出した。
「久子さまが招致活動をされることができないのは分かっています。総会の場で、東日本大震災の被災地支援にお礼を述べられるということで、何とかお願いできないか」
風岡長官が断ろうとしても、下村文科相は粘った。「考えてもらえないでしょうか」。こう頼んで、長官室を出たという。
■「拝察」の意味は
宮内庁側は、文科省側の態度の背景に安倍晋三首相の意向があると察した。実際、長官室には間もなく首相官邸の事務方トップ、杉田和博官房副長官から電話がかかってきた。「お願いできないか。これは官邸としての考えだ」
風岡長官は悩んだ。国土交通省出身で事務次官も務めた風岡長官のもとには、道路関係四公団民営化推進委員会などで面識がある猪瀬知事も何度も訪ね、招致への協力を求めていた。宮内庁も法制上は内閣府の一組織にすぎない。首相官邸の意向を無視することはできなかった。
「苦渋の決断だ」。ご出発前日の今月2日、風岡長官は、久子さまに総会に出席いただく方針を記者団に説明した。「ギリギリ招致活動ではないといえるんじゃないか」と話しながら、ためらいも隠さなかった。
「両陛下もご案じになっているのではないかと拝察している」。記者から「拝察とは」と質問を受けると、風岡長官は「言葉をいただいたのではなくて、拝察した」と強調した。
宮内庁長官が「拝察」などの言葉を使って陛下のお気持ちを推測するような発言をするケースはまれにある。同庁に詳しい関係者には「陛下のお考えを代弁したと解釈すべきだ」という見方もあるが、実際のところはベールの向こう側だ。
永田町では、こうした解釈は通用しなかったのだろうか。菅義偉(すがよしひで)官房長官は翌3日の定例会見で「両陛下の思いを推測して言及したことについては非常に違和感を覚える」と批判した。(産経)>
杜父魚文庫
14118 久子さまIOC総会ご出席の舞台裏 古澤襄

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