■米国は閣僚協議で「強い日本」支持の方針
国連総会で平和主義に「積極的」とつけて首相・安倍晋三が「積極的平和主義」と表明した狙いはどこにあるのか。明らかに集団的自衛権行使への憲法解釈変更を国際公約とすることによって、もう戻ることのないルビコンを渡ったことを意味する。
総会演説では深い言及を控えたが、タカ派シンクタンクでの演説が強くそれを示唆している。米政府は安倍の日米同盟重視姿勢を“本物”ととらえ、すぐに反応した。来月3日の日米外務・防衛の閣僚協議いわゆる「2+2」を「歴史的会議」と位置づけ、「強い日本を支持」する方針を明らかにしたのだ。
まるで中国国家主席・習近平と韓国大統領・朴槿恵の米国における反日宣伝活動に、半沢直樹ではないが「100倍返し」で応じたかのような訪米であった。安倍は国連総会は言うに及ばず、タカ派シンクタンクや、ニューヨーク証券取引所で思いの丈をぶつける演説を展開した。
日本の首相はNYでの国連演説はだいたい当たり障りのない発言をするので有名であり、歴代ほとんど無視されてきた。安倍の狙いはもちろん中韓両国に対するけん制の意味もあるが、NYタイムズやワシントンポストなどリベラル系マスコミへの「10倍返し」でもある。
ことあるごとに安倍を右傾化と批判してきた両紙などに「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのならどうぞお呼びください」と痛烈な一打を加え、中国の軍事支出と日本のそれを比較して見せたのだ。
さすがに自民党幹事長・石破茂は見るところを見ている。テレビで「首相が国際社会に強いメッセージを発するということは久しくなかった。海外での期待も高い」ともろ手を挙げて賛同した。まさに現在の日本にとって必要不可欠の“宣伝戦”参入であった。
一連の講演のなかで注目すべきは「ハドソン研究所」主催の会合での発言だ。国連演説で軽く触れた「積極的平和主義」発言の内容に踏み込んでいる。
まず安倍は「国連平和維持活動(PKO)の現場で、日本の自衛隊がX国の軍隊と活動していたとする。突然、X軍が攻撃にさらされる。しかし、日本の部隊は助けることができない。日本国憲法の現行解釈によると、憲法違反になるからだ」と述べた。
これまでの発言は米国へ向かうミサイル撃墜と並走する米艦防衛問題に絞ってきたが、PKO活動に踏み込んだのは新展開である。その上で安倍は「一層積極的な参加ができるように図ってまいります」と明言したのだ。
これは明らかに歴代政権が維持してきたPKO参加5原則の「武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られる」の規(のり)を越えている発言である。まさに最近政府が強調している「集団的自衛権行使は地域を限定しない」事にもつながる方向に踏み込んだ発言であろう。
米政府内部には日本のこうした安保上の大転換の動きを“眉唾”で見る空気があったが、どうやら信ずるに足る方針転換と見始めた感じが濃厚となってきた。
ホワイトハウス国家安全保障会議のアジア上級部長・メデイロスは27日記者会見し、3日に東京で開かれる日本とアメリカの外務・防衛の閣僚協議について、「強固な同盟関係を確認するため、日本と緊密に協力できることを楽しみにしている」と言明した。
さらに加えて「同盟関係をよりよくするための日本の取り組みはすべて歓迎する」と集団的自衛権への安倍政権の動きに明快に賛同した。加えて「2+2」協議でまとめられる共同宣言の中に「アメリカは強い日本を支持する」という文言が盛り込まれることを明らかにした。
この結果日本で初めて開かれる国務長官・ケリー、国防長官・ヘーゲル、外相・岸田文男、防衛相・小野寺五典の会談は、尖閣問題や北のミサイル、核実験問題など緊迫した極東情勢の中で、かってなく重要性を帯びてくることになった。
またこの米国の方針は訪米して集団的自衛権への要求が強くなかったとしている、公明党代表・山口那津男の“報告”を、根本から否定するものである。
ただ集団的自衛権の解釈変更の閣議決定は既報のように大幅に遅れる見通しとなってきている。最大の理由は、時局が消費増税や経済対策、アベノミクスの腰折れ防止、NSC設置法案とこれに連動する特定秘密保全法案など超重要課題が押せ押せとなってきており、安全保障上の大転換をするゆとりがないのが実情だ。
自民党内は半数を占める新人議員らへの納得のいく説明も必要だ。石破も29日「あまり早く処理しようとするとあれもこれもとなって、かえって仕損じる恐れがある。いっぺんに全部やると過積載トラックがひっくり返る」として「通常国会で一連の法案や予算成立のめどが立ち、4月の消費税引き上げが一段落した後になる」との見通しを述べた。
公明党の説得にも時間がかかりそうなことも背景にある。(頂門の一針)
杜父魚文庫
コメント