■世界の潮流は圧倒的に原発依存だ
エキセントリックな原発再稼働阻止の越権行為を繰り返してきた新潟県知事・泉田裕彦がなぜか一変して常識的な「真人間」に戻ったように見える。東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働申請を認め、事態は来年春の再稼働に向けて大きく動き出した。
既に現在停止中の50基中14基が原子力規制委員会に再稼働の申請をしており、冬には再稼働が開始される。
しかし大きな方向としては世界一厳しい安全規制によって、50基の原発は20~30基に減少せざるを得ない見通しが強まっている。ところが世界の潮流は圧倒的に原発依存の流れであり、日本は他国の原発を製造しているだけでは激しい経済競争に立ち後れる上に、アベノミクスも先細りにならざるを得ない。
現在のところは再稼働達成が最重要課題だが、中期的には筆者がかねてから主張しているように安倍政権は時期を見て原発新設または廃炉原発の新型へのリプレースを断行する方針を打ち出すしかない。
世界の原発市場はアジアを中心に今後20年間で100基を越える新設が予定されている。1基5000億円かかるから、100基で50兆円の大市場だ。既に首相・安倍晋三は成長戦力の柱と位置づけ、昨年前半はトップセールスを展開し、大きな成果を上げてきた。
しかしロシア、韓国、中国などがこの市場を虎視眈々と狙って既に動き出している。問題はその製品の質である。原発業界では「チャイナ・韓国リスク」がささやかれている。それはそうだろう。「墜落穴埋め新幹線事故」の例に見られるように、中国はまだまだ大型精密工業の段階にない。
韓国も売り出しに躍起だが、原発だけは低価格で競争すべきものではない。製品も質も最低の状況にあり、最近では偽造部品による建設が発覚して、国内23基中9基が停止を余儀なくされる事態に至っている。国内原発すら不良品では原発輸出などおこがましいのである。
チャイナ・韓国リスクの原発で東南アジアが席巻されたら、事故が起きれば偏西風で日本は影響をもろにかぶる。
そもそも輸出と言っても原子炉の中核中の中核である圧力容器は、事実上日本しか作る能力がなく、世界の原発市場の8割を制している。日本製鋼所が一手に引きうけているのであり、各国とも日本製圧力容器を使って輸出しようとしているのである。
翻って日本のエネルギー事情を見れば、国民は原発停止による電気料金値上げで青息吐息だ。化石燃料購入のために流出する国富は3.8兆円に達しており、国民1人あたり3万円に相当する。稼働しなければさらなる料金引き上げになり、製品コストは上昇する一方だ。
コストが上昇すれば、安倍がいくら法人税を引き下げて、給与を引き上げようとしても、コストに吸収されてしまい給与には反映しない構図だ。アベノミクスを成功させるためには、国富流出を防ぎ同時にコストを下げる原発を早期に再稼働させるしかないのだ。
このままでは消費税8兆円の半分の国富がアラブの石油成金諸国に吸い取られてしまうだけなのだ。
再稼働で浮かび上がる構図は輸出促進との関連が極めて重要なテーマとなって来ることである。輸出は世界一厳しい規制基準で、世界最高の技術が売りになるのであろう。しかし世界に安全で最高品質の原発を売り続け、日本の原子力発電が旧態依然のままということは中長期的視野に立てば成り立つことではない。
20~30基が稼働しても、耐用年数40年の規制でやがては死を待つばかりの原発となってしまうのだ。アジア諸国が日本製原発で隆盛し、日本の原発だけが衰退の一途をたどる構図は洒落にもならない。
日本のエネルギー政策の根幹が成り立たないばかりか、アベノミクスの根底が崩れてしまうのだ。これは、政治がリーダーシップを発揮して原発アレルギーの度が“病的”にまで極まって思考停止にある世論を説得、誘導して方針の転換を図るしかない。
太陽光や風力発電など自然エネルギーが理想にしても、コストや稼働率から言って原発の比ではない。ベストミックスは一つの流れだが全エネルギーに占める自然エネルギーは現在1.4%に過ぎず、これが原発に取って代わる展望は現段階でも予見しうる将来でも存在しない。
こうして原発再稼働の先を見据えれば好むと好まざるとにかかわらず、安倍政権は、新設・リプレースの選択しかないのだ。だいいち規制基準に合格した古い原発が稼働を許されるなら、あえて反対派の好きな言葉を使えば「新安全神話」を達成しうる新型原発はなおさら稼働が許されなくてはおかしい。
安倍もかつては新設を語っている。昨年大晦日のどさくさで大きくは報道されなかったが、安倍は12月30日、TBS番組で今後の原発政策をめぐり「新たにつくっていく原発は、事故を起こした東京電力福島第1原発とは全然違う。
国民的理解を得ながら新規につくっていくということになる」と述べ、新規の原発建設を容認する姿勢を示しているのだ。今は発言を控えているが、本音はそこにあるのだろう。技術力はどんどん進歩する。
しかし将来に展望がない産業と若者が見限れば、世界に冠たる原子力製造技術の継承も人材の継続も続かなくなる。汚染水の問題を早急に処理して、再稼働から新設・リプレースへの流れを明示してゆくべきである。(頂門の一針)
杜父魚文庫
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