【北京】中国政府は何を「テロ」とみなすのか――。中国共産党の重要会議を前に発生した天安門広場への自動車突入事件と山西省共産党委員会庁舎周辺での連続爆発事件を契機にこの疑問を巡り、議論が高まっている。
国営メディアは6日に発生した山西省の連続爆発事件の犯人について、「社会に不満があった」と報じた。一方、先月28日の天安門広場での事件については、中国政府関係者と国営メディアは「テロリストの仕業」と伝えている。
2つの事件は9日にスタートする第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の開幕直前という微妙なタイミングで発生した。中国の新指導部はこの会議で持続可能な成長への道筋や急激な経済発展によって深刻化した不平等への対応を議論する。
この2つの事件には政治的な標的が関わっているほか、第三者が死亡したという共通点がある。ただ、政府もインターネットの利用者も異なる反応を示した。これをきっかけに政治的な含みのある暴力行為の定義について国内外で疑問の声が上がっている。
新華社通信は8日、山西省太原市の警察が省共産党委員会庁舎前の爆発事件に関連して、市内に住む男を拘束したと報じた。報道によると、豊志均容疑者(41)は事件への関与を認めているという。当局は現場周辺に散らばった鉄球や電子基板を発見しており、手製爆弾が使用されたとみられている。
先月28日には北京の天安門広場で多目的スポーツ車(SUV)が観光客に突っ込み、炎上。車内にいた家族3人を含む5人が死亡した。中国公安トップはこの事件が新疆ウイグル自治区で暴力的な分離独立運動を行っている「テロ集団の仕業」と述べた。
共産党と関係のある政治科学者は中国版ツイッター「新浪微博」に「一般の人を標的にしていることは同じでも、『社会に復讐すること』と『テロリストによる攻撃』は違う」「新疆の分離独立主義者の仕業なら、それはテロリストだ」などと書き込んだ。
中国では国民が土地など接収や労働争議など関する不満を政府機関にぶちまけようとするときに、手製爆弾による攻撃が起きることがある。こうした攻撃は一般的に「社会問題」が原因で、インターネットの利用者は政府を非難することが多い。事件を起こした人間に同情する声が聞かれることさえある。
新疆ウイグル自治区に住む少数民族ウイグル族による攻撃は例外だ。中国で多数派を占める漢民族との緊張関係や分離独立派の政治活動が原因で、ウイグル族の暴力に対してはインターネットの利用者も伝統的なメディアもテロ行為としてほぼ一様に批判している。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を含む外国メディアは、天安門広場の事件について社説や論説でテロという言葉を使うことに疑問を呈した。中国の民族政策や宗教政策も非難されるべきとする外国メディアが現れると、中国の国営メディアのほか、中国国内のインターネット利用者もこうした海外の論調を激しく批判した。
国営メディアと外務省当局者は6日、外国メディアはテロについて「ダブルスタンダード」を採用しているとして非難。新華社通信は論説で、自動車の中でガスボンベや過激派の宗教的なメッセージが書かれた旗が見つかったことを指摘。しかし、西側の論調はウイグル族の関与が指摘されているため事件を批判したがらない、と新華社の論説は批判した。
世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長は4日付のWSJの論説記事に「中国政府はウイグルの人々を悪者扱いすることで、ウイグル人への弾圧を漢民族の安全を守るために必要なものとして正当化している」と書いた。
山西省の爆発事件は当初、分離独立派の仕業と憶測する声もあったが、容疑者の苗字で新疆ウイグル自治区分離独立派と関係がないことが示唆されると、2つの事件は関連しているとの説は急速にしぼんだ。
中国版ツイッター「新浪微博」のある利用者は「政府はこうした争いの原因を考えるべきだ。そのほうが逮捕したり死刑にしたりするよりずっと重要だ」と書き込んだ。豊容疑者を「英雄」、「兄弟」と呼ぶ利用者もいた。
中国のテロ専門家でテロについて政府に助言を行っているLi Wei氏は8日、山西省の爆発事件にはテロ攻撃の特徴があるとの見方を支持した。Li氏は「このような活動と民族を結びつけることに賛成しない。犯人がウイグル族でも漢族でもどの民族であっても関係ない」と述べ、ソーシャルメディアの利用者が天安門広場での事件により強い怒りを感じているのは、事件が北京の中心部で発生し、死者の数が多かったためかもしれないと述べた。
Li氏はまた、何をテロと見なすかについての議論は言語の問題によって複雑になっていると話す。Li氏によると、中国語でテロを表す言葉はイデオロギー的な動機があることを強く示唆するが、英語でテロと言えば、政府や国民を委縮させるために市民に対して振るう暴力などの行動を指す。Li氏は中国の中央政府「テロリストの活動については公式な定義を定めているが、一般的なテロについては定めていないのはこうした理由によると述べた。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
杜父魚文庫
14581 中国政府は何を「テロ」とみなすのか 古澤襄

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