■日本と拉致交渉に影響も
<北朝鮮で失脚説が伝えられた国防委員会副委員長の張成沢(チャン・ソンテク)氏は、金正日(キム・ジョンイル)総書記死去後の金正恩(ジョンウン)政権にあって外交・内政両面で絶大な権勢を誇った。政権の“要”ともいえ、失脚が事実なら、日本との拉致問題交渉にも影響する可能性がある。
「張氏の権勢は2008年に金総書記が病気で倒れた難局を乗り切ったときに始まった」
北朝鮮の内情に詳しい消息筋はこう指摘する。後継者に金正恩第1書記が決定した際も総書記の妹で妻の金敬姫(キム・ギョンヒ)氏とともに関与したとされ、金第1書記の後見人に収まった。
張氏の力を決定付けたのは昨年7月、金総書記が朝鮮人民軍の重鎮として息子の正恩氏に引き継いだ李英浩(リ・ヨンホ)氏が軍総参謀長を解任されたことだ。
「張氏は軍部を除く、あらゆる部門に側近を配して権力の絶頂を極めた」(消息筋)
正恩政権は逼迫した経済の立て直しも標榜しているが、経済策を指揮してきたのは張氏だといわれる。拉致問題をめぐる日本との交渉でも実質的責任者と目され、対米など外交面も取り仕切ってきたとされる。
だが、このバランスを欠いた行政権力の“一極集中”が崔竜海(チェ・リョンヘ)軍総政治局長ら他の側近らの攻撃を招いたとの見方が強い。北朝鮮内部では「張氏は能力はあるが人望がない」とも伝えられてきた。
張氏は敬姫氏と大恋愛の末、金日成(イルソン)主席の反対を押し切って結婚。夫婦の不仲説も流れたが、金総書記の実妹の敬姫氏の威光があってこそ、張氏の権勢が保たれてきたとみられてきた。敬姫氏は重病とも伝えられ、彼女の影響力低下が今回の動きと関連している可能性もある。
張氏は金総書記時代にも公の場から姿を消し、幾度か失脚説が浮上。それでも「不死鳥」のごとく再登場し、権力の階段を上ってきた。専門家の一人は「側近が粛清されたからといって張氏まで粛清されたとみるのは早計だ。再び公の場に姿を見せることはあり得る」と話している。(産経・桜井紀雄)
杜父魚文庫
14798 張成沢 外交・内政で北政権の要 古澤襄

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