作家・水上勉(みなかみ つとむ)のことをブログの「作家・古澤元と土門拳の写真」で触れたら、それを読んだ信州・上田の従弟が水上さん直筆の版画を二枚送ってきてくれた。


従弟の趣味は篆刻(てんこく)、日展に入選したこともある。晩年の水上さんは信州・小諸に仕事場を持ったが、自ら描いた絵をスキャンして、その画像をインクジェットプリンタで竹紙に印刷したものを「版画」と呼んで楽しんでいた。
その刻印を従弟が彫っていた。「水上さんはご自分で漉かれた竹紙に描かれています。竹紙は繊維が粗いので、印を鮮明には押すことが出来ず篆刻家からいたしますと、困った紙なのですが・・・」と従弟は言う。
その縁で貰った版画が二枚。「水上さんは北京滞在中にホテルの窓から残忍無惨な天安門事件を目撃して心筋梗塞で倒れた後でしたが、傍目にはお元気そうでした。二時間ほどでしたが、先生と二人だけで歓談させていただいたことが懐かしく思い出されました」と言ってきた。
母と同じ上田高等女学校で後輩だった田村俊子文学賞の受賞作家・一ノ瀬綾さんは、平成四年(1992)に古澤真喜の伝記小説「幻の碧き湖」(筑摩書房刊)を発刊したが、人のつながり、縁を「合縁、奇縁」と表現した。
水上さんは平成16年(2004)に信州・小諸の仕事場で亡くなった。その9年後に水上さんの版画の刻印を従弟が彫っていたことを知った。これも「合縁、奇縁」なのであろう。版画は水上さんらしい細やかな味のある絵である。
杜父魚文庫
14858 水上勉の版画と刻印 古澤襄
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