■居座りは五輪精神に反する
まさにトラではなくてタヌキが虎挟みにかかってしまった。トラバサミは絶対に抜けられないわなだ。ここまで追い詰められると都知事・猪瀬直樹の辞任は避けられないように見える。
邪悪追及のノンフィクション作家で名を挙げ、史上最高の得票で当選した男の末路は、耳から汗をぽたぽた落としてまさに野垂れ死に寸前の様相だ。2日間にわたる都議会集中審議は疑惑を深めこそすれ解消するにはほど遠い結果だった。
猪瀬は五輪招致の成果をまとめた著書「勝ち抜く力」を近く出版するが、もう勝ち抜く力は無い。良心があるのなら潔く辞任して都政が五輪精神に基づく再出発を出来るようにすべきだ。
あまりにその発言がバレバレなのにもあきれる。ノンフィクション作家とは空想の世界に遊んでいて、実務には全く疎いに違いない。「5000万円の金を見てびっくりした」というが、それが入るカバンを事前に用意しておいてびっくりするだろうか。
大金を闇から闇に葬るために銀行の口座に入れず、貸金庫にしまうのもびっくりしたからか。貸金庫も大きなものでなければ入らない。
ポイントとなる金の移動がどうであったかというと11月19日午前、衆院議員・徳田毅から「5千万円を貸す。借用証を書いてくれ」と連絡があり、妻に貸金庫を契約させた。翌20日夕、受け取った現金をもって都庁に戻り、これまでの答弁では「自宅に直帰した」というものであった。
ところが、読売のスクープした公用車運用の記録からうそがばれた。猪瀬は都庁から事務所にいったん立ち寄り20分滞在して、そこにまた公用車を呼んで帰宅したのだ。タクシーを使えばばれなかったところを、町田の自宅までのタクシー代1万5千円を節約したのがたたった。
したがって猪瀬は金を持ったまま事務所に入ったことになる。猪瀬は「秘書と打ち合わせた」と証言しているが、大金を受け取った後の打ち合わせとは何か。事務所に入ったということは、事務所の職員に金を渡した可能性があるのだ。
そうとなれば、「個人で借りた。親切な人がいるものだと思った」などという証言が一段と偽証性を帯びてくる。政治資金に記載しない政治資金規正法違反につながるのだ。
地方自治体には職員が、業者から無利子無担保で金を借りた場合は、即懲戒免職となる規定がある。 都職員であれば、利害関係者からの借金は「都職員服務規程」違反に当たり、懲戒免職処分となる。事実過去には100万円近い金を受け取った都職員が懲戒免となっている。猪瀬の受け取った額はけた外れである。
あらゆる状況証拠は「クロ」を指している。そもそも医療法人徳洲会前理事長の徳田虎雄に立候補のあいさつをし、何日かして次男の毅と会食した。ほどなく、現金5千万円が用立てられたのはなぜか。猪瀬は「落選した場合の生活資金が困るから借りた」というが、いくら徳田虎雄でも初対面の人間に「生活資金」で5000万円を無利子無担保で貸すかということだ。
猪瀬は副知事時代、高齢者のケアつき住宅や、周産期医療の検討チームを束ねていた。徳洲会は病院のほかに福祉施設を営み、都の補助金も受けている。徳田がその辺をにらんで、金を渡したことは想像に難くない。贈収賄には波及しないと思うが、腐臭ふんぷんではある。
今後知事を続ければ徳田と猪瀬の腐れ縁が延々と続くことになる。9月の徳洲会に対する強制調査直後に返済したのも、ノンフィクション作家としての想像力が欠如したとしか言い様がない。まずいから返したのであって、それがどう受け取られるかは作家なら事件の核心として使う部分であろう。
驚くのは政界には与野党共に猪瀬を弁護する空気がまったくないことだ。これは普段から「怒る、威張る、出しゃばる」が評判だった猪瀬の人徳に帰するところが大きい。官房長官・菅義偉も12日、「日本を挙げて五輪招致に成功したので、差し支えのないようにしてほしい」と述べ、事実上辞任を促した。
もはや永田町では辞任を前提にして「ポスト猪瀬」の都知事選候補が取りざたされている。11年の都知事選で次点だった東国原英夫はさっそく議員辞職までしてうごめいている。舛添要一もチャンスとばかりに意気込んでいる。石原慎太郎の息子・石原伸晃、小池百合子、小泉純一郎、小泉進次郎などの名前が取りざたされているが、まだ混沌としている。
猪瀬は「都政のために粉骨砕身働くことが私の責任」と強気に辞任を否定したかと思うと、都議会で「自らの判断で職を辞し信を問わないのか」と問われ、「そういうことも一つの在り方かもしれない」と述べるなど弱気の側面も見せている。
トラバサミにかかった政治家は、必ず強気と弱気を交錯させながら、最後は辞任へと追い込まれてゆく。例外はまずない。当初から筆者が述べてきたように、猪瀬の存在はオリンピック憲章の精神に反する。現状ではオリンピックの準備もままならぬ上に、都政が渋滞して都民に被害が及ぶ。都議会の追及は来週以降も続く。
猪瀬は早期辞任こそ自らの取る道と心得るべきである。(頂門の一針)
杜父魚文庫
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