14878 どうなる北朝鮮 専門家の見方は   古澤襄

チャン・ソンテク氏の死刑執行を受けて、北朝鮮のキム・ジョンウン体制が今後、安定に向かうのか、不安定さを増すのか、韓国の専門家の間では見方が分かれています。
■「命日の式典が注目」
関西学院大学の平岩俊司教授は、NHKのインタビューで、今後の北朝鮮指導部の性格を判断するには、今月17日のキム・ジョンイル総書記の命日の式典で誰がキム第1書記のそばにいるかを注目すべきだと指摘しました。
この中で平岩教授は、「今回の一連の事態を誰が主導したかが最大の焦点だ。キム・ジョンウン第1書記が、チャン氏が自分より権力を持つ危険性を懸念したということは十分に考えられる。ただ、実際には、チャン氏が権力を持つことを受け入れない、キム第1書記以外の人たちが中心となって進めたと考えるべきだ」と分析しました。
そのうえで、「今後、キム第1書記が誰との協力を深めるかが、今後の指導部の性格を決める。今月17日のキム・ジョンイル総書記の命日の式典で、キム第1書記のそばに誰がいて、どういうグループが周りを固めるかが、非常に注目される」と指摘しました。
一方で、「チャン氏の影響力と、その側近たちのグループが非常に大きいため、一連の粛清は体制に何らかの影響があるだろう。ただ、それは純粋に権力闘争であり、路線闘争ということではないはずだ。北朝鮮が推進してきた政策、路線が、大きく変わるとは考えにくい」という考えも示しました。
■「体制はより強固に」
韓国のトングク大学のコ・ユファン教授は、今回の動きについて、チャン氏とその勢力が唯一、キム・ジョンウン体制を脅かす勢力になりかねないという危機感がキム第1書記にあり、早急に取り除こうとしたものだと分析しています。
また、今後については、チャン氏に近い勢力が追及・粛清されるなかで、危険を感じて亡命する人物が出るといったことも排除できないものの、長期的にはキム・ジョンウン体制がより強固なものになっていくという見方を示しています。
■「体制の不安定化につながる」
韓国のコリョ大学のナム・ソンウク教授は、今回の粛清で幹部らがキム第1書記にさらなる忠誠を誓うようになり、短期的には権力基盤が強化されるものの、キム第1書記に意見することができなくなり、指示を待つだけという硬直した雰囲気が広まると予想しています。
そして、こうした体制の下では経済の立て直しも困難で、国民は指導者への忠誠や期待を失い、結局、体制の不安定化につながるという分析を示しています。
さらに、国民の動揺を防ぐために外部に敵を作る必要性に駆られ、韓国に対する挑発行動に踏み切ることも予想されると話しています。
■「核実験、ミサイル発射のおそれも」
韓国の情報機関、国家情報院は、「チャン氏に近い勢力の反発を抑え、恐怖感を与える目的があった」という見方を示しました。
これは、韓国国会の情報委員会のソ・サンギ委員長が13日午前、国家情報院から受けた報告として明らかにしたものです。
この中で国家情報院は、チャン・ソンテクの死刑が執行された理由について、キム・ジョンウン第1書記がチャン氏に近い勢力の反発を抑え、恐怖感を与えようとしたと分析しています。
そして、今後については、仮にキム・ジョンウン第1書記が国内を統制できず、経済難などによって民心が離反した場合、体制の弱体化は避けられず、それを防ぐために韓国への挑発行動や、核実験、ミサイル発射などに踏み切るおそれもあるとしています。
国家情報院はさらに、チャン氏に先立って側近2人が機関銃で銃殺されたことを明らかにし、ソ・サンギ委員長は「チャン氏についても同様に銃殺されたと推測される」と述べました。
■「中国との関係に懸念」
アメリカのジョージタウン大学のマクナマラ氏は、「キム・ジョンウン第1書記は、権力を掌握するために親族の力を利用してきたが、これからは、自分に権力を集中させるために排除に動いたのだろう」と指摘したうえで、北朝鮮では、チャン氏とつながりのあった幹部に対する粛清が続くという見方を示しました。
そのうえで「中国とのつながりが深く、習近平政権とも意思疎通ができるとされていたチャン氏がいなくなったことで、今後の中国と北朝鮮の関係が懸念される」と述べました。
また、北朝鮮が今後、国内の動揺から国民の目をそらすために、韓国に対して挑発的な行動に出るおそれがあるとして、「6か国協議の参加国が集まって北朝鮮に対話を促すことで、挑発的な行動を起こさせないようにしなければならない」と述べ、アメリカ、日本、韓国、それに中国など6か国協議の参加国が結束して北朝鮮に対応する必要があるという考えを示しました。
■「中国は直接対話で真意探る」
アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のアレクサンドル・マンスロフ氏は、キム・ジョンウン第1書記とチャン氏による激しい権力争いの結果だという見方を示したうえで、「チャン氏に追随していた人たちの粛清は今も行われているし、今後も続くだろう」と述べました。
そのうえで、「キム第1書記がチャン氏の死刑執行を急いだのは、父親のキム・ジョンイル総書記が死去してから今月17日で2年となるのを前に決着をつけたかったためではないか」と述べ、父親の死去から2年となるのに合わせ、絶対的な権力を確立したかったという見方を示しました。
また、中国は、キム第1書記が中国との関係が深かったチャン氏を死刑にしたことに強い懸念を抱いているはずだとしたうえで、「中国はこれまでキム第1書記との対話に前向きではなかったが、今は、一刻も早く中国を訪問してほしいと思っているはずだ」と述べ、今後、中国の指導部が、キム第1書記との直接対話を通じて今回の粛清の真意を探ろうとするという見方を示しました。(NHK)>
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました