14970 北の張氏処刑で拉致解決は遠のく?  古森義久

■厳しい国際世論は圧力路線に追い風 
北朝鮮での張成沢(チャンソンテク)氏の処刑が衝撃波を広げる14日、「拉致問題解決に向けて-専門家100人大討論会」と題する日本政府主催のシンポジウムが東京都内で開かれた。日本の朝鮮半島や米朝関係の専門家ら100人以上が集まり、熱をこめた議論を展開した。
冒頭の基調報告では韓国の東北アジア国際戦略研究所の武貞秀士客員研究員が「金正恩(キムジョンウン)体制の現状と今後」、筆者(古森)が「北朝鮮をめぐる関係国の動向」、静岡県立大学の伊豆見元教授と東京基督教大学の西岡力教授が「拉致問題解決のために我が国がとるべき道」についてそれぞれ見解を発表した。その後の全体討論も含めて3時間近い会議で議論が最も集中したのは当然ながら張氏粛清が何を意味し、拉致解決にどう影響するか、だった。
多彩な論客たちの議論だから意見が激突したが、主要点についての多数意見は大体、以下のようだった。
 ▽金正恩体制は今後、さらに強固となり、安定していく
 ▽中国に近いとされた張成沢氏の抹殺でも中朝関係の基本は揺るがない
 ▽日本人拉致解決の成算はこれまでと変わらないかあるいはより難しくなる
日本側のこうした見解が米国の分析とはかなりの差異があることは興味深い。
体制の強固さについて、米国のジョン・ケリー国務長官は「張氏の処刑は金正恩第1書記自身がいかに不安を抱いているかを示した」と語っている。金氏自身の不安、政権の不安定さこそがこんな事態を招くとの見解である。ピーターソン国際経済研究所のマーカス・ノーランド副所長も「今回の政変自体が金政権の弱さの表れで、粛清がその弱化をさらに進めうる」と述べた。
米中央情報局(CIA)の元専門官たちが組織した安全保障調査機関「リグネット」の最新報告は「張氏に密着してきた党幹部は多く、自分たちがやがて粛清されるとみれば、必死の暴力的抵抗で金政権の転覆を図る可能性も高い」という予測を明らかにした。

中朝関係については、ロシア出身で現在はカリフォルニアのノーチラス研究所員のアレックス・マンソウロフ氏が「中国は張氏と年来の強い絆がある。その消滅は、北朝鮮の最悪の動きには中国の圧力に依存するという米国の政策にとっても打撃だ」と論評した。
リグネットも「金氏が張氏の処刑に中国への抗議を込めたことは明白で、中国側にも反発があり、中朝関係の当面の悪化は避けられない」という見方を明らかにした。
張氏処刑の日本人拉致事件への影響を語る米側専門家は少ないが、米国全体が金政権への態度を大幅に厳しくする点では日本の対北の圧力政策は国際支持を広げることになる。
国務省報道官は「この粛清は北朝鮮政権の極端な残虐性の実例だ」と述べ、ケリー長官も「金正恩氏がいかに冷酷で無思慮であるかを示した」と非難した。
共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員も金氏を「倒錯した言動をとる国際脅威の人物」と断じ、中国に北への食糧と石油の供給打ち切りを改めて呼びかけた。
米側での金第1書記へのこうした嫌悪や反発は日本が拉致解決のためにとってきた圧力路線を支える効果を発揮する。だから張氏の処刑で拉致解決が難しくなったともいえないのである。(ワシントン駐在産経客員特派員)
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