14980 書評『日中「再」逆転』   宮崎正弘

中国が進める「社会主義」と「市場経済」は水と油の関係、両立しないもはや矛盾を抑え込めず、国民の不満のマグマは大噴火寸前となった
 
<近藤大介『日中「再」逆転』(講談社)>
大連の『ダボス会議』は火が消えたようになって、中国への期待は劇的に縮小していた。会議に参加した全世界の実業家、政治家らの中国への関心が突然消え去って、むしろ日本への期待が急激に膨らんでいる。
安倍首相の唱える「アベノミクス」の評判は究めて良好、それが大連のダボス会議に七回連続で出席し取材した著者の最初の言葉である。ちなみに安倍首相はスイスの本場で開催されるダボス会議(2014年一月)には出席の意向だ。
いつもながら近藤さんの現場報告にはいきいきと躍動感に満ちていて、一気に読ませる筆力と、その筆運びの巧みさは臨場感をいやがうえにも盛り上げる。
いまの中国は習近平という極左アナクロと李克強という極右改革派の激突が繰り返されており、収拾がつかない状態である、と北京の激烈な雰囲気を伝える描写にも迫力がある。
習近平の綱紀粛正は北京を混乱に陥れて、レストラン、ホテルなどの倒産も相次ぎ、サービス業から怨嗟の声が谺しているという。
「リコノミスク」(李克強首相の経済政策)への期待も殆ど聞かれない。
それにしても現状維持が目的といわれた習近平は恩人である筈の江沢民一派に挑戦し、権力固めのために石油派をコーナーに追い込んでいるが、江沢民派からの反撃があまり見られなくなった。
いま、習近平が弱体政権ゆえに、中国は大混乱に陥っているという。
「中南海の激烈な権力闘争と超・軽量級政権、人件費高騰などで苦況に陥った製造業、深刻な人手不足、5000万人のフリーター、脆弱な民営企業、全国民に蔓延する腐敗、毒食品にニセ商品、大気汚染、水不足と水質汚濁、多発する天変地異、20兆元に上る地方債、株価低迷、エネルギー難、少子高齢化、続発する暴動・・・。すでに『ひび割れた巨竜』は満身創痍と言っても過言ではない」
つまり、この状態を産んだのは「『社会主義市場経済』というシステム疲労」にあると近藤さんは分析している。
しかも「2013年3月以降の中国社会は、言ってみれば一本の太い綱を、『本物の皇帝』(習近平主席)が左に引っ張り、『皇帝気取り』(李克強首相)が右に引っ張っている。そして13憶の中国人は、その張り詰めた網の上に乗っかって大揺れなのだ。何と緊張感にあふれ、かつ不安定な社会だろうか」という。
習近平を「超軽量級」というのも、わかりやすい比喩であろう。
さるにても習近平は父親を地獄においやった仇敵が毛沢東である。にもかかわらず習近平が尊敬し「娘には毛沢東から一字もらって習姪沢と名付けたし、国家主席となって現在でも、その演説に必ずといってよいほど、『毛沢東語録』を挟み込む」のはいったい何故か?
近藤氏はこういう。
「習近平は青春時代の最も多感な時期に『毛沢東思想』で徹底的に洗脳されたことで、その洗脳状態がいまも続いているのではなかろうか」
だが、国民は毛沢東なんぞ「糞食らえ!」である。だから市場は敏感に反応し、習が主席就任以来、『中国の夢』などと発言するたびに株価は暴落を繰り返した。じつに上海株式指数は五回も暴落している。
結論的な予測は「2014年に中国のバブルは完全に崩壊する」という。
杜父魚文庫

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