■安倍の「独走」を止める側近がいない
まさに「戦後レジームからの脱却」を行動によって現す結果となった。首相・安倍晋三の靖国参拝は中国と韓国を激怒させ、ガラス細工のような極東の平和と安定を何とか維持しようとする米国の意図をも粉砕した。安倍は一体何を考えているのだろうか。
マスコミや学者の分析は群盲象を撫でるが如き見方しか出ていないが、安倍のその発言から見えてくるものは、冷徹な政治家としての姿勢でなく、個人的な信条を優先させる「靖国教徒」としての姿でしかない。
まさか首相たるものが「ネット右翼」だけを喜ばそうとしているとは思いたくないが、そう思えてくるような振る舞いだ。一番の危機は首相官邸にこの安倍の「独走」を止める力量のある側近がいないことであろう。
安倍の行動は確信犯的であった。周辺によると既に10月の段階で秋季例大祭に参拝しようとしていたが、伊豆大島の台風災害で断念している。
その辺の事情を説明して首相側近の自民党総裁特別補佐官・萩生田光一は10月20日の民放番組で「今のまま中国や韓国と会談すると『参拝しない』との前提を付けられた会談になる。それを首相は考えていない」と指摘。「就任1年の中でその姿勢を示されると思う」と、1周年を機会に参拝する決意を固めていることを明らかにしている。
つまり安倍は靖国を参拝しないことを中韓との首脳会談の前提条件にされることを回避するためにも参拝する必要があると考えていたことになる。
しかし、この判断は大局を見失っている。なぜなら中国と韓国に絶好の対日批判の材料を与えてしまったからだ。その批判の激しさは小泉純一郎の参拝の時とは比べものにならない。今回はそれだけではない。小泉の時は日本の内政問題としてきた米国までが「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している」とこれまでにない深い憂慮の声明を発する結果を招いた。
日本の最重要の同盟国までが異例の批判をしたのである。まさに極東における日本の「靖国孤立」を招いてしまったのだ。
米国は安部が就任して以来、その「戦後レジュームからの脱却」発言とこれに連動した安倍の靖国参拝実行が持つ危険性を懸念材料としてきた。その理由は、安倍の姿勢がサンフランシスコ講和条約体制に対する挑戦になり得るからである。
つまり米国にしてみればA級戦犯を処刑した東京裁判を受諾した1952年の講和条約でスタートさせた「戦後レジューム」から日本だけが“脱却”して、歴史の修正という独自の右傾化路線を進まれては極東の平和と安定にとって支障となるという判断なのである。
この危険を察知した米国はあの手この手で安倍の靖国参拝をけん制してきた。一番の象徴が10月の国務長官・ケリーと国防相・ヘーゲルによる異例の千鳥ヶ淵戦没者墓園の参拝である。明らかに米国の立場を行動を持って示したのだ。
それにもかかわらず「靖国教徒」のごとき安倍の行動となった。米国の「失望」はまさに本物と言える。中国がこのチャンスを見逃すわけがない。
中国は米中二大国による太平洋支配を唱えており、その根源は第2次大戦戦勝国による対日押さえ込みにある。防空識別圏の設定で米国を怒らせたが、安倍の靖国参拝を今後“活用”して、日米分断のとっかかりにするだろう。
同様に大喜びしているのが韓国大統領・朴槿恵だ。韓国では低迷する経済に打つ手を知らない朴の支持率が低下。朴にとって残されたのは「反日カード」しかない状況となっていた。安倍の靖国参拝は願ってもない好機の到来であろう。
こうした事態を安倍は予知していたのだろうか。安倍は明らかにこの外交的大損失には考えが及ばなかったのであろう。安倍は靖国を参拝した歴代首相の名前を弁明のように列挙したが、極東情勢の危機的状況は当時の比ではない。
昔田中角栄が「首相の座は1年たつと、キツネが憑(つ)いて自分が逆さまに座っていても気付かない」と述べていたが、その“キツネ憑き”の気配が安倍の靖国参拝から感じられる。首相動静を見れば分かるが日本の首相ほどの激務はないといってもよい。
とくに田中や安倍のように職務に専念しすぎると、一時的に思考力が混迷して判断力が落ち、とんでもない決断をしてしまう危険を帯びるのだ。
1年が経過して暫くすると落ち着くというのだが、まさに一年目の危機に、あらぬ方向への「独走」となって現れた。
特定秘密法の成立という大事業を成し遂げた安倍は、今後は経済に専念する方針を表明していたが、その政治手法はどうも順調なるアベノミクスを土台にして、ドラスティックな「信条」を優先処理させる傾向が出てきている。
衆参選挙で圧勝して、経済で順調な安倍を降ろそうとするような空気は、民主党の政調会長・桜井充が「一日も早く安倍政権を打倒しなければならない」と語っているだけだ。これは冬の蚊が飛んでいるようなもので勢いなど全くない。
しかし、高転びに転ぶ危険性は常に存在することが靖国参拝で分かった。大きなリスクを伴う行動を独断でしてしまうのだ。問題は冒頭述べたように官邸に安倍にストップをかける者がいないことだ。
官房長官・菅義偉が思いとどまるように説得したと言うが、こういう時は両手を広げていさめなければ止まるものではない。安倍の人事の傾向をみると「殿ご乱心」に直言するような人材は回りに置かない。
自民党幹事長・石破茂にしても、安倍から参拝を事前に聞いて、その危険性はすぐに気付いたはずだが、これを止めなかった。安倍が弱れば次はチャンスと考えれば直言などしない。こうして安倍は裸の王様となりつつある。(頂門の一針)
杜父魚文庫
15028 参拝で日本外交「靖国孤立」の危機 杉浦正章

コメント
第二次世界大戦(大東亜戦争)で日本と戦った米国が日本を二度と戦えることのない国にすべく極東裁判という事後法で多くの日本人を戦犯として裁きました。
人類歴史上最悪の戦犯と言えば、原爆投下を命令したトルーマンが負うべき罪でしょう。日本が進出したアジア諸国が現在発展しているのに対し西洋列強が植民地としたアフリカ諸国が未だに未開発なのは、いかに日本の進出がアジア諸国にとって結果として良かった政策だったと言えます。
そうした先人の命を懸けた戦いを日本人が支持しなくて誰が支持してくれるのでしょう。総理の靖国参拝を連合国特に米国が拒否するのは当たり前でしょう。
日本もこらから真の独立を果たし、米国の傘の下でのポチ政策はやめていけば良いと思います。先人の名誉を冒涜した中での経済発展など意味がないと思います。
貴殿の評論に敬意を持ちますが一国の総理の名前を呼び捨てにするのは止めていただきたいです。よろしくお願いします。
杉浦先生、私は不学にして先生の「現代史観」を存じあげません。しかし敢えて申し上げたい。安倍総理の靖国参拝に関する先生の反応は些か冷静をお欠きになっているのではないでしょうか。即ち
●中国の靖国批判は今始ったことではなく、単なる政治的イチャモンです。
●韓国は大東亜戦争に於ける交戦国ではありません。全くの便乗批判です。
●オバマ政権の批判は弱体化したオバマ政権の自信無き外交力故の事なかれ願望です。考えてみて下さい。中国がもし尖閣で軍事力行使をすれば日本は米国の力を借りなくとも勝利します。その結果
①負けた中国には日清戦争後と同じ国内混乱が発生します。
②迷惑な隣人韓国とは敬して遠ざけるという、日本としては願ってもない関係が構築できます。慶賀の至りです。
③同盟国日本との盟約を履行しなかった場合、米国は政治、軍事、経済的Superpowerの世界に於ける地位をあっという間に失うでしょう。こんなことは米国の真の支配層である所謂「50家族」は容認しないでしょう。蛇足ですが安倍総理の政治家としての力量はオバマ氏を圧倒しています。
杉浦先生、Opinion Leaderとしてマスコミのいい加減なデマから我々民衆を救い出すことこそ先生の使命だと思いますが如何でしょうか。もしもお気に障ったところがあればお詫びいたします。
今回、安倍総理が靖国神社に参拝されたことに、多くの日本人は、感謝していると思います。
太平洋戦争中に、無念の思いで亡くなった多くの先人が祭られている靖国神社に、後世の日本人の代表として、内閣総理大臣が参拝することは、日本人として当然のことです。
さらに言えば、今回、安倍総理が靖国参拝を中止したとしても、中・韓との関係改善は実現しなかったことは、火を見るより明らかです。
杉浦正章氏の論文には;
> A級戦犯を処刑した東京裁判を受諾した1952年の講和条約でスタートさせた・・
とありますが、日本国政府は『東京裁判』を受諾などしておりません。
日本国政府が受諾したのは『東京裁判での諸判決』です。
杉浦正章氏の認識は、小和田某氏による国会答弁と同じですね。