<習近平政権の海洋覇権拡大の動きはとどまるところを知らない。日本は中国の周辺国との連携をさらに強めてこれを抑止する大戦略を展開すべきだろう。筆者(北京・山本勲)の本欄執筆も最後なので、そのための提言をしてみる。
「中華民族の偉大な復興の夢実現のために発奮し、周辺外交でなすべきことをなさねばならない!」
習主席は10月の外交座談会でこう力説。トウ小平の遺訓である低姿勢外交から高圧的、攻撃的な対外戦略に転換した。日本の領土・領海を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定する暴挙もその一端だろう。
習氏の母校、清華大学の閻学通・当代国際関係研究院院長によると、中国は2023年の習政権満了時までに、米国にほぼ匹敵する海洋強国となるそうだ。
その時点で(1)国内総生産(GDP)17兆ドルと米国(19兆ドル)にほぼ並び(2)有人宇宙基地を有し(3)5隻の空母を建造(最低3隻就役)(4)射程8千キロの核ミサイル搭載原子力潜水艦4、5隻を保有する計画だ。
習政権の狙いは今世紀最大の成長圏である太平洋からインド洋にかけての海域で、米国と並ぶ覇権を確立することにある。その最初の関門が日本と台湾だ。
日本の取るべき戦略は、相手の矛先を東シナ海の一点に絞らせないことだ。安倍晋三政権が台湾と漁業取り決めを結んだことは、中国の日台分断を封じるうえでも高い評価に値する。漁業問題が、良好な日台関係の唯一のトゲだったからだ。
安倍首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国を訪問、南シナ海の領海問題で中国の不当な主張に苦しむ諸国との連携を強めた。中国と長大な国境を接するモンゴル、ロシアに続き、年初にインドを訪問することも大いに結構だ。
次の課題は中国西側の中央アジア諸国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)との関係を強化することだろう。
日本は2004年8月、川口順子外相(当時)の各国(トルクメニスタンを除く)歴訪時に、これら5カ国との対話と協力の枠組み「中央アジア+日本」を立ち上げ、外相会合などの交流を重ねてきた。06年8月には小泉純一郎首相(同)がカザフスタンとウズベキスタンを歴訪したが、首相訪問はその後途絶えている。
安倍首相にはこれら諸国とのトップ外交を再強化してもらいたい。首相は10月のトルコ訪問で、エルドアン首相と安全保障対話の深化や経済・技術協力の拡大などで合意している。
トルコ国民の親日ぶりは有名だが、中央アジア諸国もタジキスタン以外はトルコ系民族が主流だ。首相歴訪が実現すれば、すでに関係緊密なモンゴルから中央アジアを経て、トルコに至る友好の絆がつながる。
中央アジアはかねて欧米列強が入り乱れる覇権争奪の場だった。ソ連崩壊後は上海協力機構(中国、ロシアとトルクメニスタン以外の中央アジア4カ国で構成)が地域の安全保障や政治、経済連携の場となったが、各国の思惑は随分異なる。
新疆ウイグル自治区にウイグル族(トルコ系)の独立運動を抱える中国にとっては最重要の辺境対策だ。一方、ロシアは旧ソ連圏の中央アジア諸国を含む「ユーラシア同盟」の創設をめざし、中国の勢力拡大を警戒している。
米国もアフガニスタンや中国をにらみ、この地域での勢力強化に虎視眈々(たんたん)だ。日本は米国やロシアとも連携し、習政権の海洋覇権拡大を背後から牽制(けんせい)、抑止する戦略を展開すべきだ。(産経)>
杜父魚文庫
15050 中国の海洋覇権「背後から牽制」 古沢襄

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