15135 対立する日中首脳に多い類似点、専門家らが指摘   古沢襄

<【北京 1月6日 AFP】中国の習近平(Xi Jinping)国家主席(60)と日本の安倍晋三(Shinzo Abe)首相(59)は、深まりつつある外交面の対立で身動きが取れない状態だ。ただ、アナリストらは拡大する対立関係とは対照的に、両首脳には驚くべき類似点があると指摘している。
片や民主主義国家、片や一党独裁国家と、全く異なる政治体制を通じて現れた両首脳だが、いずれもエリート政治家の2世である上、個人的または政治的に厳しい逆風にさらされた経験を持ち、夢想的で愛国的な未来のビジョンを掲げている。
視野の類似点は、国家主義色を帯びた経済政策の根底にある。中国は世界2位、日本は3位の経済大国だが、両首脳は各自の国の経済活性化を図っている。
香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の政治学の専門家、ウィリー・ラム(Willy Lam)氏は、「こうした人物像や似たような経歴は重要だ思う。なぜなら習主席と安倍首相の双方にとって、国家主義は自身の地歩固めに利用できる有効な力であり続けているためだ」と語った。
安倍首相が昨年12月26日、これまでも物議をかもしてきた靖国神社(Yasukuni Shrine)を参拝したことは、日中関係の最新の火種になっている。これに先立ち中国政府は、両国が領有権を主張し、日本が国有化した尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島、Diaoyu Islands)を含む東シナ海(East China Sea)の空域に防空識別圏(ADIZ)を設定した。
第2次安倍内閣の発足と、習氏が中国共産党中央委員会総書記に選出され新体制が発足したのはいずれも2012年。
習主席は「中国の夢」と「中国国家の偉大な復興」を推し進め、軍事力の強化、時代遅れの経済成長モデルの見直し、共産党内部の汚職取り締まりを遂行する意向を明言している。
一方の安倍首相は「日本を、取り戻す。」のスローガンの下、いわゆる「失われた20年」後も長期低迷が続く景気のてこ入れや、戦争放棄などを定めた憲法の改正、日本の過去についてより肯定的見方を取る方針を掲げ、選挙で支持を集めた。
習主席は革命の英雄として活躍した共産党幹部の子息だが、文化大革命当時の政治や経済、社会の混乱の中で育ち、父親の拘束や自身も「下放」を経験した。こうした複雑な過去を持つものの、中華人民共和国の建国者であり、国を苦難に陥れた毛沢東(Mao Zedong)初代国家主席の生誕から120年にあたる昨年12月26日には、毛沢東の記念堂を訪れて敬意を表した。安倍首相の靖国参拝と同日だ。
安倍首相も政界の名門の出身で、父親は外相などを歴任した。
■「過去の幻影」追っている?
世界有数の軍事力を有する中国。習主席は、同国初の空母を視察、国防費の2桁増を監督してきた。一方、安倍首相は約10年ぶりの防衛費増額に積極的な姿勢を示し、ヘルメットを着用して自衛隊の戦車や訓練機に乗り込むなどのパフォーマンスを行った。
日本経済新聞の飯野克彦論説委員は、習主席の毛沢東の記念堂訪問と安倍首相の靖国神社参拝は、いずれも自国の過去に正しく向き合っていないとの批判を浴びた点でよく似ていたと指摘。両首脳が過去を問いただす意見を無視し、自らの歴史認識を声高に主張した、と述べた。
また、飯野氏は安倍首相と習主席が掲げたスローガンに言及し、「自分の手で未来を構想するのでなく、過去の幻影を追いかけているのでは、といぶかりたくなる」と付け加えた。
これまでのところ両首脳が接触したのは、昨年9月にロシアで開催された主要20か国・地域(G20)首脳会議と、10月にインドネシアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議のみ。中国は、安倍首相の靖国参拝で対話の扉は閉ざされたと主張している。
ただアナリストらは、両首脳がいずれも経済活性化を模索しており、これが対立の行き過ぎを未然に防ぐ可能性があると見ている。香港中文大学のラム氏は、12年に日本が尖閣諸島を国有化した後とは異なり、これまでのことろ安倍首相の靖国参拝が、中国国内で日本の権益を攻撃する動きにつながっていない点を指摘。「経済面のつながりは(関係)悪化の中で非常に強力な抑制要因になっている」と付け加えた。
香港科技大学(Hong Kong University of Science and Technology)のデビッド・ツバイク(David Zweig)教授によると、安倍首相と習主席は同じように難題に直面している。「中国は力の点で日の出の勢いだが、倫理の点では衰えつつある。だからこそ習主席は、新たな倫理、つまり毛沢東や汚職対策、偉大さに対する夢想、統合に関する倫理を押し付けようとしている」
「安倍首相が22年間続く経済低迷の収束を図っているのは明らかだ。おそらく安倍首相は、国家主義の推進や過去の再解釈、日本人としての自己肯定の強化、防衛力増強、国際問題をめぐる受動的姿勢の転換が、その方法だと考えているのだろう」
ツバイク教授は「日本で断固とした指導者が影響力を持ち得るのは疑いない。中国ではそうだと思う」と語った。「従って両首脳の各自の経歴は、重要な影響を及ぼすはずだ」(AFP)>
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