15170 公明切り自維み連立   阿比留瑠比

■集団的自衛権で政界再編の予感
<年明け早々の2日、公明党の山口那津男代表が東京都内での街頭演説で、中国の故事を引用してこんなことを語っていた。
 「快馬は鞭影(べんえい)を見るや正路につく」
山口氏は「高い能力の馬は鞭(むち)を打たなくても、鞭の影を見ただけで進むべき道を疾走する」との意味だと説明した。午年生まれで年男の安倍晋三首相の靖国神社参拝と、近隣国がそれを批判している現状を当てこすったのは明らかだ。
おとそ気分にひたる中で、一国の宰相を鞭打たれる馬に例えるとは、友党の代表としては礼を失した話だとあきれた。そしてそのまま酔いつぶれ、平成26年の政界の行方についてこんな他愛のない夢を見た。
■突然の連立解消
灼熱(しゃくねつ)の夏到来を感じさせる7月、首相公邸で緊急の自公党首会談が開かれた。テーマは、安倍首相がついに政府解釈を見直し、行使容認に踏み切る決断をした集団的自衛権の取り扱いについてだった。
山口氏「まだ議論が足りず、時期尚早で受け入れられない。もっと近隣諸国に配慮した方がいい。どうしても見直しを強行するというなら、われわれは連立離脱を考えざるを得ません」
安倍首相「そうですか。それじゃあ、仕方ありませんね。私もいろいろ我慢してきましたから」
売り言葉に買い言葉だった。小渕恵三内閣の平成11年から、野党時代も含めて続いてきた自公関係のあっけない終焉(しゅうえん)の瞬間だった。
山口氏としては、政権の「ブレーキ役」として解釈見直しの先送りなどの譲歩引き出しを狙ったのが本音だった。だが、安倍首相の堪忍袋の緒はすでに切れかかっていたのだ。
綸言汗のごとし
安倍首相にしてみれば、自民党はこれまで十分に公明党への配慮を重ねてきた。昨年中に一定の結論を得るはずだった集団的自衛権の問題にしても、公明党の意をくんでここまで引っ張った。消費税への軽減税率導入に関しても、公明党の意向に沿って「10%時」との表現を盛り込んだ。
そもそも集団的自衛権の政府解釈見直しは、第1次政権時代からの安倍首相の悲願であり、24年9月の自民党総裁選でも、同年12月の衆院選、25年7月の参院選でも掲げ続けた公約だ。
膨張する中国や、混迷を深める北朝鮮などの国際情勢や、それに対応する戦略上の要請もある。公明党の支持母体である創価学会票は大切であっても、今さら旗を降ろせる話ではない。
そんなところに山口氏にいつもの「上から目線」で禁じ手の「連立離脱カード」を振りかざされ、安倍首相は「少数政党にもう振り回されたくない」と思わず舵を切ったのだ。
公明党票に依存していた自民党内も、実は「政府解釈見直しはいずれ認めざるを得ない」という声も少なくなかった公明党内も蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。両党内からは、安倍首相と山口氏への恨み言があふれたが、綸言汗の如しであり後の祭りだった。
■連立・連携志願
「山口氏の言葉は政治家としての『タメ』がなく、思ったことを何でもすぐに口に出しすぎる」
「連立与党にとどまってこそ、われわれは政策実現ができる」党首会談後の公明党両院議員総会では、こんな山口氏への批判が相次いだ。
これに対し、山口氏は「平和の党であるわが党は湾岸戦争時もイラクへの自衛隊派遣時も、集団的自衛権に当たらないよう主張してきた。このまま受け入れては創価学会婦人部も納得しない」と訴え、連立離脱は渋々承認された。
公明党内では、なお自民党との閣外協力を模索し、いずれ連立に復帰すべきだとの意見が多数を占めていた。だが、他の野党も公明党の不在という千載一遇の好機を見逃さなかった。
まずはみんなの党の渡辺喜美代表が動きだした。渡辺氏は1月4日の段階で、集団的自衛権の見直しについて党内議論を進める考えをこう示していた。
「連立の組み替えが起きるかどうか分からないが、その時にみんなの党がこう考えるという答えを用意しておく必要がある」
渡辺氏はもともと、第1次安倍政権で行政改革担当相に抜擢(ばってき)されたことで、安倍首相に恩義を感じている。自民党を飛び出した後も連絡は欠かしておらず、早速協力を申し出た。
■新たな保守連携
みんなの党を離れて結いの党を結成した江田憲司代表との連携を模索していた日本維新の会の橋下徹共同代表もこのころ、壁にぶち当たっていた。結いの党側の呼びかけで合流に向けて政策協議はやってみたものの党内はまとまらず、話し合いは頓挫していた。
維新を率いて国政に打って出たものの、思うような成果を挙げられないでいた橋下氏にとって、公明党の連立離脱は政界で再び主導権を握るチャンスだった。
橋下氏はもともと、集団的自衛権に関する考え方では江田氏よりむしろ安倍首相に近い。個々の政策への対応は是々非々でも、「維新とはずっといい関係が続いている」(安倍首相)という間柄でもある。
石原慎太郎共同代表や平沼赳夫国会議員団代表をはじめ、党内の旧太陽の党系はなおさらそうで、山田宏、中田宏両衆院議員ら保守色の濃い議員らも安倍首相に共感を持つ。
「地方自治、公務員制度改革を本当に進めるためには、ここは自民党と手を組んでキャスチングボートを握った方がいい」
橋下氏にこう強く決断を迫る議員もいて、党内はにわかに浮足だった。
沈み行く船に乗ったまま、脱出の機会をうかがっていた民主党内の保守派にも、憲法改正をにらんでひそかに安倍首相との協力を狙う議員らがいた。
長島昭久元防衛副大臣や笠浩史元文部科学副大臣ら、自民党よりも公明党にアレルギーのある議員たちは、従来の野党共闘とは異なる保守共闘の枠組みに魅力を感じていた。少なくとも、結いの党と合流するよりは自らが望む政策実現の可能性が高いからだ。
■自維み連立へ
安倍首相自身も自公連立当時から、みんな、維新、民主各党の保守系議員とは折に触れて話をする機会を設けており、自身で連絡も取り合うことができたことも大きい。
夏場から初秋に向け、自民党と各党との連立・連携協議が進み、公明党は次第に話題に上らなくなった。
民主党からは一部議員が離党して新たな会派をつくり、安倍内閣に閣外協力を申し出た。そして秋の臨時国会を前に、安倍首相は内閣改造を断行した。
発表された閣僚名簿にはみんなの渡辺氏と維新の平沼氏の名前が記されていたが、公明党議員の名前はそこになかった。

集団的自衛権をめぐる各党、各議員の姿勢は、今年の政局の行方、いや日本の将来のあり方を左右しかねない。そんな問題意識が、愚にもつかないこんな夢を見させたのだろうか…。(産経)>
杜父魚文庫

コメント

タイトルとURLをコピーしました