■安倍首相の靖国参拝と世論調査
産経新聞は共同通信に加盟し、記事の配信を受けている。大きなニュースの場合は、「番外」と題して第1報の短い記事が伝えられる。
昨年12月29日にも、その番外が来た。同28、29両日に全国緊急電話世論調査を行い、安倍晋三首相が同26日に靖国神社を参拝したことについて「外交関係に『配慮する必要がある』との回答が69・8%に上った」との内容だった。記事に付けられた仮見出しは「靖国参拝69%が外交配慮必要」だった。
ん?、「配慮する必要がある」が69%? そう聞かれたら、参拝の賛否はともかく、そう回答する人も多いだろうに。それよりも肝心な参拝への賛成や反対、あるいは参拝後の内閣支持率は?
素朴な関心に答えていない不自然な第1報に疑問を抱いているうちに、第2報である長めの記事が配信されてきた。
それによると、内閣支持率は55・2%で、参拝前の12月22、23両日に行った前回調査に比べ「1ポイント増と横ばい」だったという。不支持率は32・6%(前回33・0%)だった。「内閣支持55%横ばい」との仮見出しも加わった。
参拝後に内閣支持率が上がったことが分かったわけだ。だが、支持率は「上昇」ではなく「横ばい」だと表現された。参拝そのものへの評価はまだ盛り込まれていなかった。
さらに長めの原稿が第3報として配信されてきた。ようやく首相参拝を「よかった」との回答が43・2%で、「よくなかった」は47・1%だったとの記述があった。「よくなかった」が3・9ポイント上回った。
産経新聞は29日付の朝刊で共同配信の記事を政治面でいわゆる「ベタ記事」(見出しが1段)として載誌し、見出しは「安倍内閣支持率、1ポイント増55・2%」とした。参拝が「よくなかった」との回答の方が多かったこともきちんと掲載しつつ、参拝後に内閣支持率が上昇したことが一番のニュースだと判断したからだ。
産経と同じく共同通信の配信記事を使用した日本経済新聞も「靖国参拝でも1ポイント増」との見出しでベタ記事を掲載した。「靖国参拝でも」との表現を使ったところをみると、産経と同じ解釈だったのだろう。
読売新聞は今月10~12日に自社で世論調査を行った結果、内閣支持率は62%で、前回調査(昨年12月6~8日)の55%から7%増えた。扱いは1面で、3段見出しで「内閣支持回復62%」だった。
首相の靖国神社参拝前後で、沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けた動きが政府と仲井真弘多知事の間で大きく進展したことも影響しただろう。実際、読売では首相の靖国神社参拝は「評価する」が45%、「評価しない」が47%だった。
TBS系のJNNが今月11、12両日に行った世論調査では、内閣支持率が62・5%で、前回調査(昨年12月7、8両日)に比べ、7・9ポイント増えた。首相の靖国神社参拝は、「良かった」が42%、「良くなかった」が46%だった。
いずれにせよ、首相の参拝への賛否のデータを示しつつ、支持率が増えたことを素直に報じるのが自然なはずだと思うのだが、そうではないメディアもある。
毎日新聞と東京新聞も共同通信から記事の配信を受けている。同じ配信記事なのに、毎日は共同の意図通りに1面に「外交的配慮『必要』69% 首相靖国参拝巡り」との2段見出しだった。なぜか内閣支持率が上昇したことは一言も触れていなかった。
東京は支持率上昇部分も掲載したが、1面の3段見出しで「69%『外交配慮必要』 首相の靖国参拝に憂慮」だった。さらに2面に関連記事を掲載し、横組の見出しで大きく「『外交期待持てない』急増」とした。
同じ素材を元にしているのに、扱いの規模を含め新聞各社によってこうも違いが出るわけだ。毎日と東京にとっては、首相が靖国神社を参拝した後に支持率が上昇したことは「不都合な真実」だったのだろう。
仮に支持率が1ポイント下がっていたら、「横ばい」との表現は使わず、「靖国参拝で支持率下落」との見出しを前面に出していたであろうことは、想像に難くない。
なぜなら同業者として、同じ感覚はある程度理解できなくもないからだ。
産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)も1月4、5両日に世論調査を行った。内閣支持率は前回調査(昨年12月14、15両日)に比べ4・7ポイント増え、52・1%だった。扱いは2面、見出しは4段で「内閣支持率50%台回復」だった。
首相の靖国神社参拝への評価は、「評価する」が38・1%で、「評価しない」が53・0%だった。だが、3面に掲載した記事でそのことは見出しには取らなかった。
一般の読者にとってみれば、どっちもどっちだと思われるだろう。ただ、別の視点で共同通信の世論調査の扱いを見ると、実に興味深い。
参拝後に支持率が「上昇」したことを見出しにしなかった共同、毎日、東京は、いずれも昨年12月に成立した特定秘密保護法に批判的なメディアだった。
「戦争をできるようにするための法律だ」といった妄想に近い意味不明の扇動調の記事が目立ったが、批判の大きな理由の一つを礼儀正しい表現でまとめると、「政府が恣意的に秘密を指定し、情報が隠される懸念がある」というものだった。
繰り返すが、毎日新聞は、内閣支持率が上昇したことさえ記事で触れなかった。世論調査では毎回、内閣支持率の動向に言及するのが一般的だ。それなのに毎日は、恣意的に情報を提示しなかったのだ。
さて、朝日新聞の登場である。朝日も昨年12月29日付で、2ページを使って世論調査結果を掲載した。「20代はいま」と題した調査で、政治に限らず友人関係や恋愛観など若者の価値観を探る内容で、通常の政治に関する世論調査とは趣が違った。
新聞を毎日読んでいるが、正直、当日は読み飛ばした。というより、調査結果が掲載されていることに気付かなかった。政治に関する世論調査は各紙とも通常、1~5面あたりのどこかで掲載される。今回の朝日はいわゆる「中面」と呼ばれる30、31両面で掲載していたため、日ごろの習慣から気付かなかった。
調査は20代と30代以上に分けて結果を掲載していた。昨年11月6日に調査票を発送し、12月20日までに返送された回答結果をまとめたという。
調査を行ったのは首相の靖国神社参拝前だったが、「日本の首相が靖国神社を参拝することに賛成ですか。反対ですか」との設問があった。それによると、賛成は20代で60%、30代以上で59%だった。反対は20代で15%、30代以上で22%だった。首相参拝前の調査であることを差し引いても、圧倒的な支持である。
だが、このデータは、2ページも使った記事の中では20代の賛成が60%だった部分に少し触れただけ。見出しにはどこにもない。データ自体は「質問と回答」という欄の中に小さな文字で他の質問の中に紛れていて、見つけることさえ困難だった。
せっかく首相の靖国神社参拝に関する質問をしているのに、実にもったいない。特に20代の首相参拝賛成が反対の4倍もあるという「事実」をきちんと報じないとは。調査結果を載せただけでも情報提供の役割は果たしたのだろうが、朝日にとっては「不都合な真実」だったのだろう。
私自身、戦争で亡くなった方々に国のリーダーが慰霊のための参拝をすることは、理屈抜きでごく自然な行為だと思うが、世論は反対の方が多かったことは正直残念だった。首相も参拝後に語っていたが、中国や韓国、米国などの理解を得るために丁寧に根気強く説明するしかない。なによりもマスコミも含め、まず日本国民に参拝の意図をしっかり理解してもらう努力が必要だと感じた。
そうした自戒の念が起きたが、朝日、毎日、東京、共同は違ったようだ。自分たちに都合の悪い数字は恣意的に隠すか控えめに報じ、政府の「恣意的な情報の扱い」は徹底的に糾弾する。首相の参拝への評価が反対よりも圧倒的に多いのに、社説で「首相と靖国神社 独りよがりの不毛な参拝」(昨年12月27日付の朝日新聞)とばっさり「断罪」してしまう。特定秘密保護法でも常軌を逸した報道を繰り返した各社のいかがわしさがよく分かった世論調査結果だった。(産経)>
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