15273 細川が「言い訳選挙」になってきた  杉浦正章

■「原発即ゼロ」でオリンピックは無理
清和源氏の流れを汲むだけあって自分の方が偉いと思っているのだろう。同じ殿様の、秋田県知事の佐竹敬久が東京の「ご乱心の殿」の批判を展開した。記者会見で「細川さんはそんなに古い大名じゃない。たかだか700年くらいだ。うちの方が400年くらい先輩だ」と“格”の違いを強調。
その上で生活の党代表・小沢一郎が細川支持に回ったことをとらえて「殿様に悪代官が付いた。小沢一郎さんとか色々付録が付いてきた。孤高の戦いならいいが変なのが付くとあいまいになる」と真っ向幹竹割り。
あらぬ方向から弾が飛んできた細川護煕は22日になってようやく正式記者会見をすることになったが、ここに来て「原発ゼロ」のプラス要因より、「オリンピック返上」などのマイナス要因が目立ち始め、選挙はワンフレーズ・ポリティックの小泉戦略が利かなくなってきたことは確かだ。
都知事選をめぐる政策論議の構図は、どんどん変化をしている。小泉が打ち出した「原発ゼロ一点集中」戦略が“蚕食”されてきているのだ。
小泉の「原発はゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なしで日本は発展できないというグループの戦いだ」というセリフは、主要候補がみな「私も脱原発」と唱え始めて、あえなくつぶれる気配となってきている。
小泉の神通力は2度も効かないのだ。そうした傾向もあってか、殿様はどうも最初の勢いが鈍ってきているような気がする。記者会見を2度も先延ばしにした上に、日本記者クラブが主催する共同会見も断った。どうやらマイナス要因のクローズアップが“怖い”に違いない。
そのマイナス要因とは何かと言えば冒頭の小沢悪代官説はさておいて、佐川急便からの一億円借入問題、オリンピック返上・反対論、連合東京の舛添要一支持、宇都宮健次との一本化断念などひしめいている。佐川急便問題は22日の会見の焦点になるが、結局これまで主張してきた「自宅の塀の修理に使った」などあいまい答弁の域を出ないだろう。
したがってこの問題は投票日まで引きずるだろう。ジャーナリストの池上彰の著書のインタビューで細川が「安部さんが『オリンピックは原発問題があるから辞退する』と言ったら、日本に対する世界の評価が格段に違ったものになっていた」と語ったオリンピック反対・返上論も焦点となる。
細川周辺は選挙に打撃になることが避けられないとみて、弥縫策(びほうさく)を講ずるのに懸命だ。マラソンの東北開催などの案が出ているが、オリンピック委員会を無視してできる話ではない。
原発問題も小泉と歩調を合わせて「即ゼロ」を打ち出すのだという。都知事選挙を左右する浮動票を狙ってのポピュリズムの極致のような愚策だが、果たしてこれだけで戦えるか。既に大きな打撃が生じている。連合東京が民主党の方針と真逆の舛添支持に回ったのだ。
連合東京は原発推進の東電労組の力が大きく、会長の大野博も同労組出身だ。大野は「連合は、自然エネルギーなどと組み合わせて徐々に原発を減らす考え。すぐに原発をなくす立場ではない」と正面から細川にチャレンジしている。
加えて自民党は「原発即ゼロ」とオリンピックを絡めて批判を強めている。元首相・森喜朗は「6年先の五輪にはもっともっと電気が必要。今から原発をゼロにしたら、五輪を遠慮するしかなくなる。世界に対してご迷惑おかけすることになる」と発言している。
確かに「原発即ゼロ」は細川の「オリンピック反対」と確実に絡む形で選挙戦に突入することになるだろう。したがって、オリンピックで弥縫策を打ち出しても、効果は薄くなるというジレンマを抱えることになるのだ。
そもそも東電は柏崎刈羽原発の再稼働を申請しており、早ければ夏か遅くても秋には再稼働にこぎつける流れだ。その原発が作る電力を都知事が都民に「使うな」と言う権限はない。知事室も朝日新聞も使わざるを得ない。「原発ゼロ」は初めから絵に描いたもちに過ぎないのだ。
このような流れはマスコミの論調にも如実に表れ始めている。最初に一面トップで持ち上げてあとではしごを外すのはマスコミの習癖であり、最近では「卒原発」を主張した日本未来の党のケースがそうであった。最後まで細川を熱烈に支援する新聞は限られるだろう。
1995年の都知事選挙でタレントの青島幸男に敗れた元内閣官房副長官・石原信雄が、毎日新聞で切実に訴えている。地方自治のエキスパートであるだけに傾聴に値する。
「都民は猪瀬さんに434万票も与えた揚げ句に裏切られたのを奇貨として、もっと切実に都政に目を向けてほしい。何しろ首都直下地震が迫っている。高齢化が進む巨大都市の被害を減らすには、国や近隣自治体と緊密な関係を築き、危機管理ができるリーダーを選ばないといけない。いたずらに中央政府を敵視して対抗軸を探しているような人物では都民を救えない」。
くだらない知事ばかりを選択してきた都民は、確かに目を覚ますべき時だ。途中で投げ出す性癖のある知事では極めて危険だ。
◎盟友浅野勝人氏の著書を、毎日新聞の「余録」が紹介しています。是非ご一読ください。以下全文。
「西洋覇道か、それとも東洋王道か」。三民主義を唱え中国の国父とも呼ばれる孫文が日本国民に対し、どちらの道を歩むのか慎重に考えてもらいたい、と訴えたのは、1924年11月。大アジア主義の理念を説いた神戸での著名な演説だった▲日本がこの警告に耳を傾けず、日中、太平洋戦争へと破滅の道を歩んだのは歴史の教えるところだ。
それから90年後、中国の最高学府・北京大学で「日本を中国に置き換えて読み返すと、孫文の演説が今に蘇る」と逆転させ、大国化した中国に自覚と責任を求める日本人がいる▲浅野勝人(あさの・かつひと)元衆院議員(75)。
NHK政治記者から政界に転じ第1次安倍内閣では副外相をつとめた。記者時代、日中国交正常化を取材して以来40年にわたり関係改善に尽力、中国側からの要請で2011年11月から13年9月まで7回同大学で日中関係について連続講義を行った▲尖閣問題で日中が冷え切った時期だったが、階段教室には毎回300人の学生が詰めかけた。
浅野氏も、孫文の引用のみならず、中国の反日教育に注文をつけるなど、将来の中国を背負うエリートに対し率直な持論を展開した▲質疑も活発だった。学生たちは浅野氏が中国政府の施策に厳しい指摘をした時も拍手で応え、
ある女子学生は「相手を許すことができないままでは共に発展することはかなわないと悟りました」との感想をくれた▲そんな講義録と学生の反応をこのほど「日中反目の連鎖を断とう」(NHK出版)にまとめた。
いわば中国版白熱教室だ。アカデミックな自由さがしこりを解く。尖閣、靖国で凝り固まる両国だが、まだやるべきことがある。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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