<小泉純一郎元首相だけでなく、菅直人元首相や生活の党の小沢一郎代表らが東京都知事選での支援を表明し、細川護(もり)煕(ひろ)元首相が俄(が)然(ぜん)、時の人となっている。これで細川内閣で官房副長官を務めた鳩山由紀夫元首相も参戦したら、民主党のトロイカ3人組の復活・そろい踏みとなり、さぞやある種の見物となろう。
ただ、筆者にとっては肝心の細川氏の印象は薄い。細川政権当時、社会部に所属していて政治取材とは縁遠かったこともあり、どんな実績があるかと考えてもすぐには思い浮かばない。
はっきり記憶しているのは、細川氏が平成5年8月の就任後初の記者会見で、先の大戦についてこう明言したことだけだ。
「私自身は侵略戦争で、間違った戦争だと認識している」
それまでの首相も「中国に対しては、侵略の事実もあった」(中曽根康弘元首相)、「侵略の事実は否定できない」(竹下登元首相)などと侵略性を認める発言はしていたが、明確に「侵略戦争」と断じた首相は初めてだった。
対英米戦が果たして侵略なのかと、強い違和感を覚えた。その直前に、宮沢喜一政権下で出された慰安婦募集の強制性を認めた「河野洋平官房長官談話」と合わせ、政治家が歴史を安易に定義しようとする流れに実に嫌な感じがした。
古い話を持ち出したのは、この「侵略」をめぐる騒動が、あれから20年もたつ今もことあるごとに繰り返されているからだ。
「侵略という定義については、学会的にも国際的にも定まっていないと言っていいのだろう」
安倍晋三首相が昨年4月にこう述べると、国内メディアは「植民地支配と侵略について反省とおわびを表明した村山談話の否定だ」と書き立て、騒ぎは海外にも飛び火した。韓国の国会は非難決議を採択し、米主要紙も一斉に首相を批判する社説を掲載した。
だが、国際法上、侵略行為の明確な定義がないのは事実である。首相は別に突出したことを言ったわけでも何でもない。
にもかかわらず、今も誤解と曲解は続く。毎日新聞は安倍首相が靖国神社に参拝した翌日(昨年12月27日)付の社説でも、こんなことを書いていた。
「首相は国会で、大戦について『侵略の定義は定まっていない』と侵略を否定したと受け取られかねない発言をした」
ほとんど言いがかりではないか。そうではなく、正当な批判だというのであれば、毎日には次の発言についても「侵略否定だ」と是非指摘してほしい。
「侵略という言葉の定義については、国際法を検討してみても、武力をもって他の国を侵したというような言葉の意味は解説してあるが、侵略というものがどういうものであるかという定義はなかなかない」
安倍首相と同様の趣旨を語っているが、これは7年10月の衆院予算委員会での村山富市首相(当時)の答弁である。同じことを村山氏が言うのはよくて、安倍首相なら問題視するというのはご都合主義がすぎる。
首相時代の細川氏が、どこまで信念を持って「侵略戦争」と述べたのかは分からない。ただ、政治家にもメディアにも歴史をもてあそんでほしくないと切に願う。(産経・政治部編集委員)>
杜父魚
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