■民主党は孤立化の様相
論戦の火ぶたを切った代表質問を通じて出てきたキーワードは「責任野党」だ。通常国会はこのキーワードを軸に展開する。その構図は自公連立を軸に、維新、みんな両党との部分連合の流れであり、主要野党で民主党の孤立化は明白となった。
首相・安倍晋三の答弁からは高支持率とアベノミクスの好調に支えられた自信が強くうかがえた。その象徴が原発再稼働への明言であり、集団的自衛権への意欲であった。とりわけ原発再稼働については安倍も幹事長・石破茂も都知事選で焦点となっているにもかかわらず再稼働を断言するという大胆不敵さであった。
与野党の強弱がこれほど際立った代表質問も珍しい。安倍が答弁の冒頭で海江田の質問を「全部で46問ご質問をいただきました」と述べたのは、野党第1党党首としての代表質問の貧相さを皮肉ったのだ。
確かに質問は総花的でまるで民法テレビの駆け出しコメンテーターのインタビューのようであった。政党の党首としての理念や理想の表明とはほど遠いものでもあった。質問内容に隙がありすぎて安倍に完膚なきまでに切り返された。
海江田が「最近の首相の路線は立憲主義と平和主義を軽んじて格差と貧困を放置し、暴れ馬の感がある」と決めつければ、安倍は「格差と貧困を放置する人がこの本会議場に一人として存在するか。存在しない」と切り返し、与党席の爆笑と拍手を誘った。
都知事選で原発ゼロが焦点の一つになっていることをとらえて海江田は再稼働への見解をただしたが、安倍は「海外からの化石燃料への依存度が高くなっている現実を考えると、『原発はもうやめる』というわけにはいかない」とぶれない姿勢を表明した。
石破も質問で「原発ゼロはスローガンであっても政策ではない」と小泉純一郎と細川護煕の主張を袈裟懸けに切った。都知事選でも舛添要一が有利になっていることへの自信の表れと言える。
注目すべき点は安倍がさきの所信表明演説で「政策実現を目指す責任野党とは政策協議を行ってゆく」と呼びかけたのに対して、維新の国会議員団幹事長・松野頼久が質問で「責任野党として外交、安保、憲法改正については前向きの議論を進めてゆきたい」と応じたことである。
さらに松野は集団的自衛権問題について「集団的自衛権は独立国であれば当然持っている。権利はあるが行使できないという、訳の分からない解釈は見直しの時期に来ている」と、安倍の安保路線の核心部分を支持した。
みんなの党代表・渡辺喜美は既に「自民党渡辺派」と述べるほど前のめりになっている。これはとりもなおさず主要野党が分断されたことを意味している。マスコミうけを狙って、民主党と共産党が特定秘密保護法の廃止法案を提出しても、野党がまとまらないことを意味している。
さらに安倍にとって有利なのは「責任野党」論が集団的自衛権容認の閣議決定に向けてこれに難色を示す公明党への強いけん制になることである。
安倍は4月の安保法制懇の答申を受けて公明党との調整に入り、遅くとも秋までには閣議決定して、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂へと結びつける方針だ。公明党は一段と追い込まれる情勢となっている。
民主党の代表質問が湿った線香花火に終わったのに比較して、石破の質問が精彩を放った。安倍に負けるとも劣らぬ自信を見せたのだ。本会議場を一番湧かせたのは石破であった。
「嫌われると票が減るとか、人気が落ちるとかの理由で国民に真実を語る勇気を持たないのは政治家の自己保身だ。国民を信じて真実を語らない政治が国民に信じてもらえるはずがない」と締めくくると、与党ばかりか一部野党までから万雷の拍手が生じた。
野党が理念を語らない「インタビュー質問」であったのに対して、理念を語ったからだ。石破は明らかにポスト安倍の有力候補を意識し始めている。
こうして初戦は安倍政権側の圧勝に終わったが、通常国会は半年ある。この間4月には消費増税が現実のものになる。
集団的自衛権の行使をめぐる論議、普天間移設、環太平洋経済連携協定(TPP)、中韓両国とのあつれき、夏以降の原発再稼働など超難問が前途に山積している。いつ爆発してもおかしくない地雷原を行く如しであることは確かだ。(頂門の一針)
杜父魚文庫
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