米ウォール・ストリート・ジャーナルは南米アルゼンチンの通貨ペソが急落し、通貨危機への不安が再燃したと伝えた。
<【ブエノスアイレス】南米第2位の経済大国であるアルゼンチンでは、23日に通貨ペソが急落した。これを受け、中央銀行が市場介入を余儀なくされ、通貨危機への不安が再燃した。
ペソ相場は通常、厳格に為替管理されている。だが23日は、取引開始当初こそ1ドル=7.14ペソを付けていたものの、わずか数時間で8.50ペソまで下落した。
下落率が20%近くに達したことを受け、アルゼンチン中銀がドル準備を売却してペソの急落を抑えに掛かった。電子為替取引市場のMAEによると、中銀の介入を受け、ペソは7.75ペソまで持ち直して取引を終えた。
前日比では8%安となり、1営業日の下落率としては同国で2002年に起きた通貨危機以来の大きさとなった。年初来では約19%下落しているが、(違法両替商などが使う)非公式レートの下落率はこれを上回る。
ABCメルカド・デ・カンビオスの為替トレーダー、ディアス・メイヤー氏は「相場が暴落している」と述べた。
事情に詳しい関係者によると、アルゼンチン中銀はペソ防衛のため1億ドル(約103億円)を投じた。
米金融業界のエコノミストらは、アルゼンチンの見通しについて悲観的だ。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの為替ストラテジストらは「当社では、アルゼンチンペソが今後も圧力にさらされるとの見方を維持している。これをきっかけにアルゼンチンは恐らく年内にも、深刻な債務危機か通貨危機、あるいはその両方に見舞われるだろう」と述べた。
23日に中国で発表された1月の製造業景況指数(PMI)が低調だったことを受け、途上国が(先進国の)金融緩和策の終了後の状況を乗り切れるかについて懸念が広がった。こうした懸念を背景に、アルゼンチンペソなど複数の新興国通貨が大きく売られた。
大豆の主要輸出国であるアルゼンチンにとり、今回のペソ急落は、過去10年続いた商品(コモディティー)価格の上昇が途絶えて以降、状況は劇的に変わったという警告にもなっている。
ドル建て収入の95%を原油に頼るベネズエラも22日、厳重に管理している通貨ボリバルの切り下げを実施した。
政府によれば、海外旅行やインターネットでの買い物、航空券、海外からの送金などでドルを必要とする国民は全て、新たな入札制度を利用することになると述べた。同制度では最近、1ドル=11.36ボリバルでドルを売却した。公式レートは1ドル=6.3ボリバル。
南米諸国の通貨では、ブラジルレアルも1.3%安の1ドル=2.4レアルと売られた。ブラジルはアルゼンチンの主要な貿易相手国であり、アルゼンチンの問題が減速気味のブラジル経済をさらに悪化させるとの懸念が重しとなった。
アルゼンチン中銀はこの数年、ペソ相場を安定させるため為替市場でドルを売買してきた。これまでもペソの暴落は断続的に起きており、2001年~02年の事例では、同国は10年間にわたり試験導入していた1ドル=1ペソの固定相場制を放棄し、その後、950億ドル規模の債務不履行(デフォルト)に陥った。
しかし、この数カ月、高インフレのためペソの防衛コストが徐々に拡大していた。中銀の統計によると、アルゼンチンの外貨準備は年初時点で290億ドル(約3兆円)まで減少した。外貨準備は2011年には520億ドル(約5兆4000円)という高水準にあった。アナリストや政府高官によると、中銀が外貨準備を維持するためペソ相場の変動を容認しようと決めたのは今週のことだった。
アルゼンチンのカピタニッチ首相は23日午前、当局が為替市場から退場したことを示唆した。首相は「国家主導の切り下げではなかった。自由市場の信奉者のために、外貨の需給関係そのものが反映された」と述べた。
この自由市場の試験導入は長続きしなかった。ペソは22日午後に下げ始め、23日早朝には早くも手の付けられない状態となり、中銀がドルを売って相場を落ち着かせざるを得なくなった。
エコノミストらによると、血の気が引くような今回の急落は、インフレ率が推定で25%を超えるような国の通貨を投資家はほとんど信用しておらず、アルゼンチン中銀は公式のペッグ(連動)制を維持するためドルの投げ売りを続けなければならないことを示唆している。
アルゼンチンの非公式レートではペソ23日、1ドル=13.10ペソに下落した(22日朝方の水準は12.2ペソ)。これを公式レート(7ペソ台)と比べると、公式レートがまだ割高なことが分かる。
カラベル・マネジメントのグローバルポートフォリオマネジャー、カグラー・ソメク氏は「当局にもう多くの選択肢はない。しばらく外貨準備を投じてきたが、資本逃避が全く止まっていないためだ。外貨準備には限りがあるため、通貨防衛を続ける余裕はない。通貨を買い支えることなどできないのだ」と言う。
通貨安は輸出業者にとっては追い風だが、輸入品の価格を押し上げ、国内の給与所得者の購買力を低下させるため、インフレをもたらす恐れもある。フォーカスエコノミクスが実施したアナリスト調査によると、今週の混乱前の時点で、大半のエコノミストはアルゼンチン経済の今年の成長率がわずか1.7%にとどまると予想していた。
エコノミストらは、今回のペソ急落は、アルゼンチンのフェルナンデス大統領と夫の故キルチネル前大統領が導入した経済モデルの限界を浮き彫りにしていると述べた。両大統領は、02年の危機の影響を打ち消すため政府支出を拡大したが、結果的にインフレを招き、政府は為替相場の管理や限定的な物価統制を余儀なくされた。
政府によると、昨年のインフレ率は10.9%だったが、エコノミストらは25%〜30%近辺と推計している。
22日のペソ急落後、国民の多くはフェルナンデス大統領が為替問題や経済問題に関する不安の高まりに対処するよう期待した。だが、フェルナンデス大統領が22日に行った昨年12月初め以来の演説では、経済についての言及はなく、国家による富の再配分への関与など、自身の政策の正当性を断固として訴えるばかりだった。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
杜父魚文庫
コメント