■賄賂漬けの医師たち 恨みを買う医師殺人事件が多発、中国に「赤ひげ先生」はいない
グラクソ・スミス・クラインの中国現地法人(GSC,本社=英国、世界第四位の製薬会社)が中国当局から収賄の疑いで手入れをうけ、中国人社員四人が拘束された。国際的な事件として報道された。
しかし、なぜ外国の製薬会社が中国で問題視されたのか?
理由は簡単、医薬品が高いという、庶民の不満の対象をすりかえて外国が悪いことにするからで、中国の常套手段だ。
中国の政界、官界、軍隊が腐りきっているのは有名な話で、小誌ではもはや賄賂は中国ビジネスの前提として論議を展開している。民間企業の腐敗もすこぶる「健全」であるが、ゼネコンはヤクザを住民追い立て、住居取り壊しに駆使するため庶民の不満の爆発は自爆テロか、暴動しかない。
外国企業は私設カードマンを雇い、独自のセキュリティ対策を駆使し、暴力的な抗議活動や妨害活動に対応しているが、中国ガードマン企業のなかには、とつじょ盗人に早変わりする癖がある会社も常識だから、うっかり契約も出来ない。
さて問題は医者の側にもある。いや、大あり。問題だらけなのである。
中国にはいわゆる「赤ひげ先生」はいない。江戸時代の赤ひげは、貧者からカネをとらず、医療を施して感謝され、一方では大名や濡れ手で粟の金持ちからふんだくって庶民の喝采を浴びた。
中国では、医者はカネを掴ませないと手術をしてくれない。薬も呉れない。いや、賄賂を贈らないと入院もままならない。
ところが保険適用の特権階級が登場し、さらに過去にはなかった生命保険が90年代の終わり頃から登場し、急速に拡大したので中国全土、あちこちに医院ができた。
中国の医療保険制度は貧弱な故に生命保険が大流行したのだ。
そのうえ医院とは言っても国家補助金が少なくて医者は薄給に甘んじる。
しかし医者の数も鰻登りとなり、診断受付は九時開院にしても、午前五時には長い列ができている。
そこに目を付けて「順番待ち」のプロが出没し、早い番号を法外な値段で患者や家族に売る。鉄道駅では切符売り場の長い列に横あいから乱入して客の替わりに切符を買うという商売があり、これも結構流行っている。
▼上が天文学的腐敗なら、下も腐敗汚職習藍は常識だ
医薬保険業界の腐敗はそんな程度ではない。
中国の医師らは製薬会社から高い賄賂(相場は薬の売上げの20%)を受け取り、患者に必要のない薬も適当に処方し、高いクスリの使用をなかば強圧的に診断して薦め、あげくには賄賂の額が足りないから車を買って欲しいと製薬会社に要求し、なかには愛人が欲しいとか。
前述グラクソ・スミス・クライン(GSC)事件は、そうした状況下、おこるべして起きた。
業界の競争はシェア拡大であり、そのためにGSKは、1憶6500万ドルを賄賂として用意し、医者にもっとGSCの薬品を多く処方するよう要請し、中国市場のシェアを確保してきたのだ。四人の中国人販売幹部が拘束され、国際問題となった。
中国ではジェネリック薬品が奨励されているのに、アメリカ人の平均の十倍の薬価を支払い、しかも、「ジェネリック薬品は殆ど使われず、たとえば陝西省では、ジェネリック薬品そのものが売られていない」(英製薬業界専門紙『ランセット・グローバル・ヘルス』誌)。
ふくらみ続ける医薬界の闇のこんにちの状況は、まさしく『黒い巨塔』だ。
「製薬業界の売上げが1650億ドル(邦貨換算17兆円強)に達し、しかも中国は2016円には世界第二位の製薬、薬事大国になる」という(英誌『エコノミスト』、14年2月1日号)。
医療費にしめる薬代はOECD平均が全医療費の16%だが、中国のそれは40%を越えており、なにしろ先進国でも処方されているジェネリック薬品の価格さえ、数倍高い(だから訪日中国人はあんなにたくさん日本の薬を買って帰るんだナァ)。
手術をしてくれなくて死んだ患者の遺族らが結束して医者を襲う事件が多発し始めた。
2012年には七人の医師が殺害された。重軽傷は数えきれず。なんでもありの中国、日本では考えられない事件が起きる。
(読者の声)かなり前のことですが、宮崎先生は、「厭戦的な雰囲気の中で大統領になるオバマはカーターに似ている。同じようなことになるのではないか。」と書かれていました。
シリア介入を思いとどまるなど、全くその通りになってきました。慧眼に恐れ入りました。(KUMO/愛媛)
(宮崎正弘のコメント)米国政治はとっくにレイムダックに入っていますが、共和党にこれという大統領候補がいないため、オバマ政権のあと、ヒラリーが最有力という皮肉な状況です。共和党はティパーティ(保守派)が逆に党内の統一を妨げています。
杜父魚文庫
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