15411 日韓企業の明暗左右する為替変動   古沢襄

■韓国企業はウォン高で苦境に
為替市場のトレンドが変化するなか、ライバル関係にある日本と韓国の製造業企業の明暗がこれまでと逆転している。
サムスン電子や現代自動車といった韓国の輸出企業は過去数年間、棚ぼた的利益を享受してきた。しかし、ドルや円をはじめとする主要通貨に対する韓国ウォン相場が急上昇したため、今では守勢に回っている。
彼らの一部は海外への生産シフトをさらに進めることや、為替変動の影響を和らげるため高級品の販売を検討している。
逆に、円相場の下落で、トヨタ自動車をはじめとする日本の有力輸出企業の利益が膨らんでいる。日本の大手輸出企業は世界のライバル企業に対して一段と優位に立つ一方、鉄鋼や自動車部品などの分野で日本企業としのぎを削ってきた韓国企業の立場は苦しくなっている。
ソウルに本社を置くSeo An Chemtec Co.のディレクター、Lee Seung-joon氏は「昨年12月に円が対ウォンで(5年ぶり安値水準を)割り込んだときにはショックを受けた。全くどうしていいかわからないほどだった」と述べた。
同社は金属ベースの自動車部品製造に使用されることが多い塗装プロセスの電気めっき用化学薬品を輸出している。
中堅企業である同社は化学薬品分野で日本メーカー各社と競合している。Lee氏は同社の事業はここ数年間最悪の状態で、過去1年間に利益が30%減少したと明らかにした。
東京に本社を置き、同様の電気めっき用化学薬品を製造するJCU(旧:荏原ユージライト)は、円安で海外のライバル社に対し有利に立てると予想している。ただ、同社は米国とドイツのメーカーのほうが韓国企業よりも手ごわいとみている。JCUの担当者は、同社はおそらく輸出価格を引き下げることができるだろうと述べた。同社は製品の3分の2を日本で製造している。
韓国と日本の企業が昨年10―12月期の決算を発表すれば、日韓企業の明暗が明らかになる。
韓国ウォンは昨年、対円で約24%上昇した。これは韓国が1997年に変動相場制を導入して以来、最も大幅な上げだった。

韓国鉄鋼最大手のポスコは先週、2013年の通期営業利益が前年比18%減少したと発表した。韓国の他の大手製造業企業の業績も似通ったものとなった。
一方、日本の輸出企業の決算発表は先週始まったばかりだが、一部の企業は、四半期決算としてはここ数年で最も良い結果となっている。
エコノミストの多くは、ウォンと円のトレンドは2014年も持続し、日本企業には更なる追い風、韓国企業には向かい風になるとの見方を示している。
為替の影響を正確に算出することが容易でないことは確かだ。エコノミストらは、韓国企業は、中国などの需要鈍化からより大きな影響を受ける公算が大きいと指摘する。
一方、日本企業の多くは円相場の大幅な変動から身を守るために海外に生産拠点を移している。大幅な為替差益により、投資や設備投資の拡大を通して製造業各社の競争力が押し上げられる可能性があるが、業績に反映されるには時間がかかる可能性もある。
日本と韓国は長い間、家電や自動車、産業機械などの分野で激しく競いあってきた。しかし、2007年から11年にかけて、世界のリセッション(景気後退)が長引くなかで、ウォンは対円で最大50%下落。韓国メーカーの輸出品は海外で一段と割安となり、海外での利益が押し上げられた。
こうしたトレンドは12年半ばに反転。安倍晋三首相の就任後、円安が進行し、ウォンが上昇している。
これは韓国企業にとって大きな逆風となる。アナリストらは、ウォンが対ドルで10ウォン上昇するごとに、サムスンや現代自動車の営業利益は1%減少すると予想する。サムスン電子は先月、ウォン相場の変動で、第4四半期の利益が7000億ウォン(約650億円)押し下げられたと明らかにした。
韓国企業の一部はそれに対処するため、日本企業にならって海外生産を拡大し始めている。
韓国最大の自動車部品メーカー、現代精工の広報担当者Oh Yun-geun氏は、「為替の影響を避けるため、当社は米国をはじめとする海外工場での生産を拡大している」と明らかにした。
長期化する円安は、韓国当局者にとって深刻な懸念要因だ。韓国銀行(中央銀行)の金仲秀(キム・ジュンス)総裁は先月、円の一段安は韓国の輸出企業に広範な痛みを引き起こしかねないとの懸念を表明。ただ、自国通貨の相場押し下げ競争に乗り出す可能性は否定した。
韓国当局はウォンの急速な動きを抑制するために為替市場に介入することが時々あるが、ここ数カ月間はそうした動きは見られていない。
日本企業は既に、円安の恩恵を受けている。トヨタは昨年11月に、14年3月期通期の純利益見通しを過去最高に近い1兆6700億円に上方修正し、営業利益の伸び率見通し67%のうち為替要因が3分の2以上を占めると明らかにした。
円安のおかげで、日本からの輸出品の価格も下がっており、日本製品の海外での競争力が高まっている。日銀のデータによると、特に、自動車エンジンの輸出価格は12年12月以来8.7%下がっており、自動車シャシ(フレーム)の輸出価格は5%下落している。
韓国製の自動車部品の購入を拡大していた日本の自動車メーカーの一部は、現在では購入を減らしている。
日産車体は「NV350キャラバン」の生産に韓国から約200に及ぶ自動車部品を調達しているが、国内サプライヤーとの取引拡大を検討している。
日産車体の広報担当者は、韓国と日本の製品はともに品質に問題がないとした上で、価格が同水準であれば日本製を選ぶことは間違いないと語った。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)
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