15478 民主は鵺(ぬえ)政党か   杉浦正章

■舌禍すれすれの安倍発言にも沈黙
国会論議が深まるにつれて際立つのが民主党の体たらくだ。伝説の怪獣・鵺のようでとりとめもない。一方でバランスを崩しそうな首相・安倍晋三の「前のめり答弁」も目立つ。代表・海江田万里以下誰が質問に立っても、首相・安倍晋三に「倍返し」でやられて、出ると負け。
NHKの世論調査では自民党支持率が36.2%に対して民主党は5.8%と6分の1。攻撃力が支持率に正比例していると言えばその通りだが、根本的な原因はなにか。やはり旧社会党の“栄えある伝統”の「抵抗野党」に先祖返りしてしまったことにある。
執行部を左派が握って、絶対平和主義に固執して、激動する極東情勢に対応できない政党になってしまっているのだ。9日の党大会で、今国会の核心である集団的自衛権の行使容認問題に統一見解を出せなかったことが全てを物語る。
海江田の質問は本会議でも予算委でも、まさにインタビューだ。肝心の集団的自衛権問題でも安倍に対してやるのかやらないのかの手続き論を尋ねることに終始して、自ら是非を表明する事はなかった。おまけに集団的自衛権問題をよく理解していないことまで露呈した。
海江田は集団的自衛権を日本が発動しなくても「米国の90隻のイージス艦だけで対応できる」と主張したが、ケーススタディがまるで分かっていない。数の問題ではなくケースの問題なのだ。安倍に「日本のイージス艦が少ないから米国だけで完結できるかは別の話だ」と切り返されて、ぐうの音も出なかった。
安倍の答弁はこのところ勢いづいて、はらはらするようなケースが多い。国会審議がストップしてもおかしくないほど挑発的だ。長妻昭に対して「なぜ総選挙に大敗したかを全然考えていない」と切りつけた。さすがに下司(げす)とは言わなかったが「何とかの勘ぐり」と、侮辱的な発言までした。
長妻が自民党の改憲案について「国民を縛る改憲案」と述べれば「デマゴーグだ。こういうことをやっているから民主党は駄目なのだ」とこき下ろし、さらに「民主党はうまくいかなくて割れた。
結局何も結果を出していない」と決めつけた。一昔前だったら国会ストップで大騒動になるところだが、国政選挙と、都知事選挙の連敗で脳しんとうばかり起こしている民主党にその気概はなくなった。
12日の衆院予算委でも民主党の大串博志が、内閣法制局や公明党の国交相・太田昭宏にねちねちと質問、政権内部の食い違いを引きだそうとしたのに、安倍はいら立ちをあらわにした。自ら答弁を求め「最高責任者は私です。私が責任を持って、その上で国民から審判を受ける。審判を受けるのは法制局長官ではない」と言い放った。
安倍は朝日を「安倍政権打倒は朝日の社是」と発言したかと思うと、12日はタブロイド紙にまで噛みつき「私のことをほぼ毎日のように『人間のくず』と報道しておりますが、私は 別に気にしませんけどね」と発言した。読む必要のないタブロイド紙まで読んでいる証拠で語るに落ちた。
まさに安倍は当たるベからざる勢いで、勝っても誰も褒めないレベルの低すぎる相手とまでけんかしてしまいそうだ。観察すれば、どうも多忙の余りに神経が歴代首相と比較して異様にいらだっている感じを見せ始めた。平衡の感覚が崩れ始めている。
この調子で疲労ばかりためて、いさめる側近がいないと確定的に「舌禍首相」となることを予言しておく。もうその兆候が現れ始めた段階だ。民主党はそれを楽しみにできるのだが、本題に戻して、民主党がこのようにこてんぱんにやられてしまうのは何が原因なのだろうか。
やはり党大会が象徴している。党大会では「暴走する安倍政権と厳しく対峙する」と威勢よく宣言したが、その内実は逆であった。朝日が社説で「民主党大会に漂っていたのはのっぺりとした倦怠(けんたい)感だった」と珍しく見事な表現をしたが、その通りだ。
やる気がないのだ。同社説が「集団的自衛権の行使を容認するか否かは戦後日本の岐路である。早急に見解をまとめるべきだ」といら立ちをあらわにしたことが物語っている。見解をまとめるにまとめられなかったのだ。
海江田は、「早い段階で方向を出すのはやめる」と言うしかなかった。
なぜかと言えば左傾化執行部に対して保守派が対立を表面化し始めたのだ。民主党保守派は以前から前原誠司のように集団的自衛権の行使を容認すべきとする主張が根強く、党大会での最大の対立点となった。これは同党が左派と右派の寄り合い所帯であり、亀裂を避けるために安保論争を避けてきたことに起因する。
海江田ではまとめられないのだ。海江田は自ら手を挙げて代表になったものの、落ち目の政党を立て直す力量はなく、そうかと言って政権追及能力にも欠け、全く不適格としか言いようがない。
前首相・野田佳彦や前原がいいかげんに沈黙を破って左傾化民主を復元しないとそれこそ沈没か、集団的自衛権をめぐっての分裂だ。左派の旧態依然たる安保路線では激動する極東情勢に対処しきれないことを悟るべきだ。(頂門の一針)
杜父魚文庫

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