15531 書評『侮日論 韓国人はなぜ日本を憎むのか』   宮崎正弘

■韓国人の日本侮蔑は日帝植民地支配三十六年が直接原因ではない。事大主義、劣等感の裏返し、血の一体性で日本人蔑視六百年 
<呉善花『侮日論  韓国人はなぜ日本を憎むのか』(文春文庫)>
日本の植民地支配が反日の起源ではないとして暴走韓国の真相をえぐる最新作。
反日、反日、反日とお呪いか、経文か。しかし、それほど反日を唱える韓国人が、じつはホンネでは日本が好きなのである。
このアンビバレンツな心理矛盾を、呉さんは、適切に個人の体験をしっかと踏まえて述べる本書は、誰よりも説得力がある。しかし小誌の読者には、こうした韓国の実情はすでに周知の事実と思われるので、内容の紹介は割愛させていただく。
私的回顧の章には、済州島で生まれ育った彼女は東からあがる太陽に感動した幼い記憶。そして父母は大阪と鹿児島に暮らした経験があり、日本のことを良い国と教えた。
父親はある日、日本人の客に流暢な日本語で対応していたことに強い衝撃を受けたという。しかし徹底した反日教育をうけてしまった呉さんは東京へ留学しても、まる二年ほどは日本のことを理解できなかったのだと正直に綴る。
さて呉さんは、本書の中で日本の国学、思想家に言及し、佐藤信淵と吉田松陰、さらには西郷隆盛『征韓論』について触れていて、次の箇所に評者は注目した。
すなわち韓国の歴史家の意見を集約すると征韓論には源流があり、「神功皇后による三韓征伐」、「任那日本府」、「壬辰冦乱」(文禄・慶長の役のこと)から明治新政府の征韓論に流れ、この思想的背景が現在の日韓関係に到っているとする。
他方で『大国』中国が朝鮮半島になした甚だしき介入や支配について韓国の歴史家はなにほどの痛痒も披瀝しないという事大主義が溢れている点を指摘される。
佐藤信淵を「ウルトラ・ナショナリスト」と捉える左翼学者が多いが、彼の真意は自国の防衛であり、華夷秩序への挑戦という魂の重要性を説いた。
だから呉さんは、「華夷秩序に真っ向から対決しようとした民族思想が、東アジアに初めて出現したことに注目すべき」であると分析し、さらに付け加える。
「佐藤信淵が主張しようとしたのは、世界制覇の現実性ではなく、『自主の国』の可能性を華夷秩序を突き破って世界大にまで拡張しうる、超国家の思想」だった。
吉田松陰は、その延長戦上に華夷秩序突破の緊急性を訴えた。吉田松陰を「尊皇思想家」と位置づけた呉さんは『幽囚碌』の次の言葉を引用し、征韓論の根拠、「朝鮮侵攻の根拠を与えた」とする。
松陰は「魯・墨(ロシア、アメリカ)講和一定す、決然として我より是を破り信を戒秋(えびすども)に失うべからず。但だ、章程を巌にし信義を厚うし、其間を以て国力を養い、取り易き朝鮮、満州、シナを切り隋え、交易にて魯国に失う所は又土地にて鮮満(朝鮮、満州)にて償うべし」
「朝鮮と満州とは相連なりて神州の西北に在り、亦皆海を隔てて近きものなり。そして朝鮮の如きは古時我に臣属せしも、今は即ち寝や据る。最も其の風教を詳かにして之を復さざるべきらざるなり」
たしかに吉田松陰はこのように書いたこともあったが、やがて魯(ロシア)へ、そして墨(米国)へ密航してまでも最新の情勢を入手しようとし、晩年には開国政策に対しても佐久間象山の影響を受けて、開明的な意見をのべるようになった事実経過も呉さんは忘れずに指摘している。
杜父魚文庫
  

コメント

タイトルとURLをコピーしました