15593 インドで何が起きているか、連載(その1)   宮崎正弘

■南インドも北西部には負けておられない タミル・ナードゥ州の投資増加は18・2%の高度成長
天皇皇后両陛下が昨師走にインドを親善訪問されて、とくに力点を置かれたのはチェンナイ(旧マドラス)だった。
南インドの玄関で人口700万人。国際線も乗り入れている。両陛下はデリーの記念行事の後、チェンマイへ行かれ州首相以下の大歓迎を受けた。
このチェンマイの位置するのがタミル・ナードゥ州。州首相はジャヤラリサア(通称ジャヤ。女性)。じつはこのジャヤ首相、つぎのインド首相候補で、有力三位につけている。
彼女自身たいへんな野心家であり、チェンナイしない至る所に彼女の大きなポスターが掲示されている(ついでながら現時点の世論調査では次期総選挙、与党大敗。野党連合の大躍進が確定的で、BJP(人民党)党首のモディ師が首相になるのはほぼ確実)。
地図をひらくとよく分かるが、位置的にはコルコタ(旧カルカッタ)の南西部、すぐ目の前がスリランカ。このタミル・ナードゥ州にはドラビーダ文化が色濃く残り、イスラムの影響がほとんどない南部インドを代表する。言語はもちろん、タミル語だ。
日本は、このチェンナイで地下鉄建設を援助することが決まっている。
ジャヤ(タミル・ナードゥ州)首相は2014年2月21日に「タミル・ナードゥ州ヴィジョン 2023」をいう経済計画を発表した。製薬、バイオなど成長産業のセンターを形成し、いずれ162万人の雇用を創成すると高らかに打ち上げた。
その会議には国際企業33社を招聘、うち17社がインフラ建設などでタミル・ナードゥ州進出を約束した。
この州にはすでに日立、ヤマハなど日本企業も目立つようになった。投資増加率は18・2%で、経済成長がめざましいグジャラート州より多い(ちなみにグジャラート州へ日本企業の投資が急増しているうえ、デリー~ムンバイ回廊の中間地点にあたるため、新幹線建設でも要衝となる)。
チェンナイはインド洋に面しており、綺麗な海岸線でも知られるが、カーストを嫌ってキリスト教に改宗した人が夥しく、やけにキリスト教会が多い街である。
市内には日本領事館も置かれているが、ちかくには中国領事館がある。その付近にたいそう立派な中国料理レストランがあったが、客はガラガラだった。
 ▼土地の収用に時間がかかるのがインドのアポリアだ
さて、日本企業はなぜ工業団地に集中するのか?
インドの土地問題は極めつきに厄介である。なぜならインドは民主主義国家であるうえ、各州の自治が高度に認められており、土地の収用法が統一されておらず、そのうえ州政府の遣り方も微妙に異なるからである。この点では土地全てが国家の所属で、土地の売買は地方政府の権限できまるという非民主的な中国とは比べられないだろう。
とはいえ、土地の収用交渉に相当の時間が必要で、交渉は一苦労、二苦労どころが債権者が輻輳したりしているため数年揉めてもけっきょく埒があかず工場進出を諦めてしまう例も目立つのだ。
タタ自動車は西ベンガル州の新工場建設を断念したし、アルセロール・ミタル(インド企業だがルクセンブルグ本籍)や韓国ポスコ製鉄が土地の取得が困難との判断から製鉄所新設を見送るという異常事態も出現している。
ホンダは第三工場を建設した際に、農家に将来の収穫を予測した分まで支払って、ようやく工場を新築した。第四工場はグジャラート州にようやく土地を選定したほど長期の交渉が必要だった。
今後も成長が臨めるインドにあっては人材確保以前の問題、土地の収用が大問題なのである。(つづく)
杜父魚文庫

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