[パリ 23日 ロイター]ウクライナのヤヌコビッチ政権が崩壊した。西側諸国は経済的に破綻状態にあるウクライナの安定化という困難な課題に取り組むことになる。さらにロシア寄りの政権が崩壊したことを受け、ロシアをなだめる必要もでてくるとみられる。
その責務が最も重いのは欧州連合(EU)だ。数カ月にわたる流血の反政府デモの収拾へ仲介役を買って出たEUには今、後処理という仕事が待ち構える。
ヤヌコビッチ大統領の解任が議会で決議された翌日、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席していた欧州委員会のレーン副委員長は、ウクライナへの金融支援を約束するとともに、将来的にウクライナがEUに加盟する可能性にも言及した。
EUはとりあえず、昨年ヤヌコビッチ大統領がEU加盟の前段階となる連合協定の締結を見送り、親EUから親ロシアに転換した際に棚上げした融資を緊急支援として実施する方針だ。
EU当局者はすでに、ウクライナとの連合協定が締結されれば、同国への金融支援を早期実施する可能性を示している。ウクライナは、協定締結後、速やかに20億ユーロ超の支援を受けられることになる。同協定の批准完了を待たず、EUの5億人の消費者にアクセスすることもできる。ただし、ウクライナにはEU市場に輸出できる物はさほどない。
連合協定の締結は、新政権の手にかかるが、新政権誕生は5月25日に設定された大統領選挙を待たなくてはならない。
エコノミストは、EUの貿易拡大に向けた「深淵かつ包括的な自由貿易協定(DCFTA)」が当初、ウクライナ経済をさらに疲弊させ、ロシアを主要顧客としていた競争力のない産業が打撃を受けるとと予想する。
ヤヌコビッチ大統領の政敵だったティモシェンコ元首相が釈放されたことによる政治的リスクもある。
ノムラの政治アナリスト、アラステア・ニュートン氏は「5月25日に予定される大統領選の結果など、政治的不確実性が強まり、ソブリン・デフォルト(債務不履行)の可能性も高まる可能性もある」と述べた。
<不気味なロシアの影>
現在、懸念されているのが、ウクライナが分裂を回避できるかどうかだ。東部はロシア系が大半を占め、黒海に突き出たクリミア半島のセヴァストポリにはロシア海軍の基地もある。
ウクライナの混乱で敗者となったロシアは、巨額のガス代支払いをウクライナに求め、デフォルトに追いやる可能性がある。
EU当局者は、エネルギー供給や通商の停止、棚上げになっていた領土問題を蒸し返すなど、プーチン大統領の報復を恐れている。
ヤヌコビッチ大統領が解任された翌日、ロシアのシルアノフ財務相は、ウクライナ向け支援の一環である20億ドルのウクライナ債購入を情勢が落ち着くまで延期すると述べた。
<EU内に拡大疲れ>
ヤヌコビッチ政権崩壊により、EU内のウクライナ加盟反対論が後退するかどうかは不透明だ
今回の仲介で中心的役割を担ったポーランドのタスク首相は、ウクライナの加盟の意義を訴えるが、2004年以降、大半が旧社会主義の中・東欧13カ国がEUに加盟。西側加盟国の間には、「拡大疲れ」が漂う。
EUは、ギリシャに端を発する債務危機への対応で加盟国の調整に非常に苦労した。国境を接するとはいえ、現在は「部外者」のウクライナへの大規模支援は、それ以上の曲折が予想される。(ロイター)>
杜父魚文庫
15599 ウクライナ政権崩壊、安定化へ問われる欧州の手腕 古沢襄

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