<インドのこれからの経済発展の可能性は非常に高いが、政治的要因が発展を阻害することが往々にして起こる。
政治システムが高度の自治を各州政府に認めているため、州によって法律が異なる。たとえば厳格な禁酒を実施するアンドラ・ブラデシュ州、タミル・ナドゥ州もあれば、自由に酒が飲めるゴア、ボンベイ。
キリスト教信者が多い沿岸部(とくに西海岸から南端まで)は比較的民主化が進んでいて、西洋化しているが、デカン高原やアッサムの山奥、パキスタンに近い砂漠地帯など、習俗も風俗も、ましてや宗教が異なると、州の政令が違うのは自然である。
いや、インドは共和制である前に連邦国家、人口にかかわらず各州から上院議員が選ばれる。この点で米国の合衆国に似ている部分がある。経済政策に関して中央政府は従来、地方政府にまかせっきりだった。社会主義を標榜しながら地方分権、自由放任だった。それが主因となって経済開発から取り残された地域もでてきたのだ。
宗教が輻輳している地域では宗教紛争が絶えず、わけてもヒンズー教原理主義は暴力的にイスラム教徒に迫害をくわえている。ときに報復としてテロが起きる。
イスラム教徒と結婚しようとしたヒンズー教徒の娘は、周囲から輪姦された上、過酷な罰金を取られた。リンチにあってやけどを負ったり、なかには殺される女性も多く、しかもこうした事件は村長の命令であり、そのまま被害者らは泣き寝入りというケースが多い。都会では考えにくい悪習がいまものこる村落が多い。
またヒンズー原理主義の地域では見えないカーストが工場管理をやっかいにする。
▼経済構造の偏りが問題だ
経済的諸問題について検証したい。
第一にインドは日本と同様な原油輸入国である。もとよりインドは早くから海を越えてアラビアからアフリカ東海岸、その間に挟まるインド洋の島嶼国家への進出も早かった。
このため貿易と国際金融に明るい特質があるが、同時に商売上手という意味では、その執拗な性格とねばっこい交渉術から「印僑」を呼ばれる。
インドの銀行をみると日本では聞いたこともないアラブの銀行が店舗を構えている。東海岸ではシンガポールの金融機関の進出も目立つ。
中東からアフリカ東海岸への印僑の拡がりは歴史的な因縁のうえに成り立つので、日本はアフリカ進出に関してはむしろインド企業と組む方が迅速な結果を産むかも知れないし、事実、こうしたビジネスモデルで成功した企業もある。
ともかく原油高に直面する昨今、日本と同様にインドも貿易赤字がつづくという脆弱性がある。
第二に通貨インド・ルピーが変動相場制度のため、ファンド集団からの投機的奇襲には脆弱である。
さらに言えばインド・ルピーが暴落気味ゆえに、マイナス方向へのスパイラル現象がおきる。すなわちインフレが経済成長より高く、また通貨安が金利高をよぶ。
中国の安い労賃による工場設立という魅力とは異なり、インドでは通貨安によって輸入物資(とくに石油)が急騰するため原油高騰のマイナス面が大きい。そのうえ、インドは外貨準備がすくないため、インド通貨がさらに投機筋の攻撃に曝されるとルピー暴落の懼れがある。
第三にエネルギー不足解消のため太陽光に大胆に切り換え中だが、先の見通しは立っておらず、原発による発電も追いつかない。火力発電がいまも半分近いため、石炭さえインドは輸入国へ転落している。(続く)>
杜父魚文庫
15603 インドで何が起きているか、連載(その3) 宮崎正弘

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