■ウクライナめぐり厳しい選択
[キエフ 23日 ロイター]冷戦時代を思い起こさせる東西対立に陥ったウクライナ。ロシアのプーチン大統領は今、この隣国の未来に加え、自らの政治的な遺産をも方向付けそうな決断に迫られている。
ヤヌコビッチ政権が崩壊したことで、プーチン氏はロシアの「衛星国」としてウクライナをとどめておくという考えに欠かせない盟友を失った。同氏は、中国や米国に対抗するため、かつてのソ連構成国をできる限り集めて巨大な通商圏を構築しようともくろんでいるが、その狙いが打ち砕かれる可能性も出てきた。
しかし、ウクライナをめぐって強硬路線を取ったり、資金に窮する同国への影響力を勝ち取るべく欧州連合(EU)との争奪戦に引きずり込まれたりするのはリスクが大きい。
ロシアには、昨年末表明した150億ドルに上る資金援助を拡大させる余裕はほとんどない。しかし、主にロシア語圏であるウクライナ東部を併合するといった強硬策は、さらに深刻な紛争につながる恐れがある。
プーチン氏は今のところ、公の場でこの問題に言及していないが、オバマ米大統領やメルケル独首相と電話で会談。ソチ五輪が終わるまでは、努めて沈黙を守っていた。
しかし、ウクライナの首都キエフ中心部にある独立広場では、デモ隊がプーチン氏の出方を不安げに待ち構えている。
クリミア出身のAlexeiTsitulskiさん(25)は、「プーチンが干渉したがるのは分かっている」と話す。この地域はかつてロシアの領土だったが、1953年にソ連最高指導者でウクライナ出身のフルシチョフによってロシアからウクライナに移管された。
また、他のデモ参加者らからも「クリミアのような東部地域を占領しようとすれば、われわれもそこで戦う。ウクライナを分断させない」との発言が聞かれる。プーチン氏がウクライナの地政学的なせめぎ合いでメンツを保とうとするなか、こうした発言もロシアにとってリスクが高いことを示している。
米国も23日、ロシア部隊の派遣は「深刻な誤り」になると警告した。
<割に合わない勝利か>
ヤヌコビッチ大統領は昨年11月、貿易と政治面でEUとの関係を強化する協定締結を拒否し、ソ連時代の保護国であるロシアとの経済連携を選択。この時、プーチン氏は決定的な勝利を収めたように見えた。
ただ、そのコストは膨大だった。ロシアは重債務国のウクライナに150億ドルの支援で合意し、ウクライナ政府がロシアに支払う輸入ガス価格の引き下げも約束した。
しかし、この合意を交わしたヤヌコビッチ氏が失脚した今、支援が実現されるかは疑問だ。野党指導者やキエフのデモ隊の多くは、欧州との関係強化を望み、ロシアに取り込まれるのを懸念している。
ウクライナを自陣にとどめておくために、ロシア側が財政支援を保留することは考えられる。ロシア政府はこの数日、そうした策に出ることを公然と示唆するようになってきた。また、別の案として、ウクライナからの輸入に新たな障壁が設定される可能性もある。
ロシアのシルアノフ財務相は23日、予定していた20億ドルのウクライナ債購入を新政権発足まで延期すると表明。これに対し、欧州委員会のレーン副委員長は、ウクライナの新政権がロシアではなく欧州と連携するなら、「相当の支援」をすると約束した。
またロシア政府は、プーチン氏の側近で下院幹部のアレクセイ・プシコフ氏をウクライナに派遣。プシコフ氏は主にロシア語圏である同国東部の地域指導者らと22日に会談を行った。
東部ハルコフで行われたこの会談で、地域指導者らは国会の決定を認めないと明言。ロシアの計画次第では同地域の併合という可能性も浮上した。
しかし、キエフの政治的中枢に対する圧力は、反ヤヌコビッチ派の反発が強いことから下火になっている。プシコフ氏にもウクライナの状況に対する不満が募っていると見え、ツイッターに「彼ら(ウクライナ当局)を西側支援者の方に向かわせればいい」と書き込んだ。
<プーチン氏の危機>
しかし、数日前までは勝利したと見られていた戦いで、プーチン氏がこんな屈辱的な敗北を受け入れるだろうか。
シリアの化学兵器問題をめぐって、2013年に収めた外交上の成功が遅々として進まない今、ウクライナ問題は極めて重い一撃となるだろう。ロシアが米国と主導して実現したシリア政府側と反体制派による和平協議もほとんど進展が見られない。
ウクライナが再び親EU路線に向かえば、プーチン氏にとっては外交政策の失敗となり、自国での影響も大きくなる可能性がある。
ウクライナの市場規模と鉱山資源から、プーチン氏がもくろむ関税同盟にとって同国は不可欠の存在だ。同氏はこの「ユーラシア同盟」によって、同じような考え方を持った国々を再編し、ソ連崩壊時に失った潜在力を取り戻そうとしている。
ウクライナを文化的・宗教的なつながりを持つ隷属国程度とみなすロシア人にとって、同国への影響力を失うことは受け入れがたいことだろう。
反政権派が成し遂げたヤヌコビッチ氏追放は、2011─12年にかけて反プーチン運動を展開したロシア国内の反対勢力も注視している。
ロシアの野党指導者ボリス・ネムツォフ氏は、反プーチン勢力が再びデモ活動を始める可能性を指摘し、「プーチン氏は(ヤヌコビッチ氏より)資金があり、この国の市民は忍耐強い。しかし、彼らの我慢も永遠ではない」と記した。(ロイター)>
杜父魚文庫
15606 プーチン氏「屈辱の敗北」か 古沢襄

コメント