15723 オバマ訪日の暗雲   古森義久

オバマ大統領の来日が迫ってきました。さてこのアメリカ大統領の訪日は日本にとってどんな意味があるのか。安倍政権への影響はどうなのか。
もちろん多角的にみることが欠かせませんが、一つ、確実なことはオバマ政権が中国への融和的な姿勢をこのところ一段と増しているという現実です。
国家同士の関係や同盟のきずなは多数が並んでも、みな相互にゼロサムというわけではありません。アメリカが中国と親しくなれば、必ず日本とのきずなが弱まる、というわけではないのです。
しかし、その一方、日本にとっていまの中国は明らかに利害のぶつかる非友好的な相手です。その非友好的な国とアメリカが友好を深める姿勢をとれば、日本への影響がプラスにはなりにくいことも、現実として認めておくべきでしょう。
今回の訪日では、日米両国間の切迫した諸課題に加えて、米中両国関係の新しい概念「新型大国関係」を安倍晋三首相との間で語る見通しが強くなった。
オバマ政権は、米中両国が共に大国として特別の絆を結び、国際秩序の運営に主導的な役割を果たすという「新型大国関係」を受け入れる形となってき た。
そうなると、日米同盟への大きな影響も不可避となる。日本としても当然、その新たな動きの真意をオバマ大統領に問うことが必要となるわけである。
オバマ大統領の訪日では日米両国間の共同防衛強化の諸策や日本のTPP加盟問題、さらには歴史関連課題などが語られる見通しだが、そうした日米両 国だけの案件に加えて、中国との関係が主要課題の1つとなりそうである。オバマ政権側も、中国への新たな取り組みは当然日本側への説明が必要だと見なすだ ろう。
■自国の「核心的利益」も認めさせようとする中国
ブッシュ前政権の国務、国防両省でアジア担当の高官を務めたランディ・シュライバー氏は、3月19日、ワシントンの大手研究機関「ヘリテージ財団」が主催したオバマ大統領のアジア訪問を論じるセミナーで、オバマ・安倍会談の議題について次のように語った。
「オバマ大統領は安倍首相に対し、米国がいま受け入れつつある中国との『新型大国関係』の内容について説明する必要がある。特に米中両国のそのよ うな接近が、日本のようなアジアの同盟諸国にとってどんな意味があるのかの説明が不可欠となるだろう。その理由の1つは、中国側がこの新型大国関係という 概念に自国の『核心的利益』を加えて、米国にそれを認めさせようとしているからだ」
中国の唱える「核心的利益」とは、台湾、チベット、新彊ウイグル自治区などに対する中国の不可侵の主権主張である。米国を含めて他国はこれらの課 題には一切関与するな、という宣言でもある。そして中国政府はその「核心的利益」に南シナ海での紛争諸島や東シナ海の尖閣諸島を含めるようになってきたのだ。
■オバマ訪日を前にして日米同盟に暗雲、米中関係の深化が止まらない
そうなると、米国が中国との新しい型の大国関係を認めた場合、中国の尖閣諸島領有の権利までを暗に認めたとするような解釈が、少なくとも中国側から出てきかねない。さらには、米国がアジアでの同盟諸国と摩擦を起こし、脅しさえかけている中国と新たなつながりを拡大するとなれば、米国の長年の同盟軽視という構図さえ浮かんでくる。
つまりは米国が同盟諸国の立場を無視して頭越しに中国と直接的に連携するという危険性なのである。米国側でもシュライバー氏のような共和党側のアジア専門家は特にこの動きを警戒し、極めて批判的な見方を述べているのだ。
だが、この種の懸念は現実のものとなりつつある。オランダのハーグで催された3月24日の米中首脳会談では、会談開始直前の共同声明で、オバマ大統領が「新型の米中両国関係の強化と構築」を宣言した。習近平国家主席も待っていましたといわんばかりに「米中両大国の新型関係」を強調し、「対決や衝突をなくし、相互尊重、ウィン・ウィンの協力」を築くことを力説したのだった。
この米中首脳会談直後の米側からの発表でも、両国首脳が、2国間の経済協力だけでなく、北朝鮮の核武装、イランの核兵器開発、ロシアのウクライナ奪取など広範な国際課題を協議したことが報告された。まるで米中2国が国際秩序を管理していくかのような響きだった。
米国側は中国の東シナ海、南シナ海での領有権拡張の強引な手法に一応の批判は述べたとされたが、あくまでごく控えめの位置づけだった。
■国内の批判をよそに深化する米中関係
中国が切望する「米中新型大国関係」の概念は、米中両国が国際社会全体で主導的な立場に立つ特別な大国同士として関わりを深め、協調を広くするという発想である。その考えは、オバマ政権の発足直後に政権周辺で唱えられた「米中G2」構想にも似ている。
しかし米国側では米中新型大国関係への反対も多い。米国側の政策立案者や関係議員らの間では、このG2構想は「現実にそぐわない」として葬られた。(つづく)
杜父魚文庫

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