15780 台湾マフィア「白き狼」が馬英九支持のデモを仕掛けたが   宮崎正弘

■権力と結ぶやくざ集団が統一派の先頭とは皮肉な時代錯誤
「中国統一推進党」なる政党が台湾に存在する。代表者は張安楽という。
四月一日はエプリルフール。同党が中心となって、「国会選挙中の学生は不正行為。国会から速やかに大挙せよ」と四時間にわたってデモ行進を行った。
つまり国民党統一派の第五列である。張安楽は、このデモ行進には加わらなかったが、台湾の政治通なら、この背後に彼の存在があることを知っている。
そそもそも「白き狼」の異名をとる張安楽とは何者か? かれは台湾のやくざ「竹連幇」のボスで中国大陸で十七年服役した後、2013年に台北へもどり百万元(台湾ドル、邦貨換算で350万円)の保釈金を支払って釈放され、町中へ消えた。警察の調査では新北市中和区に隠れ住んでいるらしい。
「国会を占拠している学生指導者の陳為旺と林飛帆は学生を雇っている」と張安楽は発言したらしいが、いみじくも蒋介石時代の学生デモが国民党が雇用したやらせだった時代の発想から抜けきれない証拠だろう。彼の認識では自発的は学生参加の政治行動など考えられないのである。
「太陽花学運(ヒマワリ学運)」リーダーの林飛帆氏(台湾大学大学院生)と陳為廷氏(台湾清華大学大学院生)に対する謀略的誹謗中傷が繰り返されている中、中国と台湾の実質的なFTA(自由貿易協定)に当たるECFA(両岸経済枠組み協定)の後続措置となるのが「サービス貿易協定」である。
この審議過程が「民主的でない」というのが学生らが立ち上がって理由である。
「サービス自由貿易協定」は昨年六月に署名されたが、銀行、eコマース、ヘルスケアが自由化されれば、台湾人の雇用が奪われるばかりか、言論の自由が脅かされ、自由な出版が圧迫されると学生らが反対理由を述べている。
国会占拠は3月18日に始まり、馬英九の似顔絵には「中国の手先」とかかれ、「反暴力」「フリー台湾」の旗が林立した。
 ▲学生はいったい何に反対しているのか?
これら学生が呼びかけた大規模な抗議集会が3月30日に開催され、50万人が集まった。
彼らの反対理由は「このサービス貿易協定は、法律上の規制と監督を受けないことになっている。われわれは両岸(台湾と中国)が将来的にどのような経済・貿易交流になったとしても、法治の基礎があるべきだと考えるし、交渉の前後において明確な監督システムが必要だと要求している。両岸の経済と貿易関係を維持しようとするなら、法制的に行うべきだ」とするもの(東洋経済オンラインのインタビュー)。
4月3日、行政院は「監視するメカニズムをつくる」と懐柔案を学生に示したが「これは欺瞞。我々はだまされない」としてはねつけた。
 
3月18日から開始された学生の国会選挙は「ひまわり運動」と呼ばれるようになった。
しかし学生らのなかに過激派が潜入し、あるいはマフィアの一員が学生を装って行政院に殴り込んで器物損壊など暴力行為にでたため警官隊が導入され、流血の騒乱となった。多くのけが人が出たのも催涙ガスのほか、官憲が棍棒で学生らを殴りつけたからだった。
学生らを心情的に支援する婦人グループが警官と学生の間に「グリーンガード」を築き、これ以上の警官の介入を防ぐ。学生をまもるために国会前の青島路(台北の永田町)には学生を支持する市民が数千名がまわりをとりまいて学生らを守っている。
かくして政治にやくざが介入したりしたため世論は硬化し、学生を支持する人々が国民党系のメディアの世論調査でも過半数、ついに馬英九は「学生が国政に関して発言するのは良いことだ」などと言い出した。
新党は議席を持つ統一派の政党で、外省人の子弟らが中心。「国会選挙中のひまわり運動の学生らは中国の利益を代弁しない」と批判すれば、学生らは「われわれは中国人ではない。われわれは台湾人である」と応じた。
▲与党国民党に亀裂
国民党内に鋭角的な亀裂が入った。もともと国民党は蒋介石時代と様変わりして、多くの本省人が議席を得ている。その代表格が国会議長の王金平である。
馬英九にとって党内最大の障害物で、馬が提出した議案を片っ端から国会で蹴飛ばしてきた王を陰謀で排斥しようとしたが、みごとな失敗に終わった。
この事件は13年九月のこと、ある民事裁判への仲裁を頼んできた後援者と王金平との電話を盗聴した当局がテープを公開して、金平を党籍除籍処分としたところ、むしろ「盗聴したことが違法」とする世論に押され、王はそのまま居座ってきた。
もし党籍が剥奪されれば王は比例代表区のため自動的に国会議員の資格を失い、議長の座を引きずりおろされるところだったのだ。
王は党内の主席選挙でも馬と争って、惜敗した。党の総裁選公認候補選挙だった。
次の国民党主席選挙は秋に予定されるが、馬の再選の可能性が日々薄くなっている。年末に迫った五大市長選挙(台北、新北、台中、台南、高雄)の候補者は国民党主席が最終的な決定権をもっており、高雄と台南は民進党の牙城。順当に行けば台北市と新北市は国民党が勝つだろうが、台中の情勢は与野党が接戦、勢力が伯仲しており、もし国民党が台中を落とせば馬英九の政治生命は低まって完全なレイムダックに陥る。
「中国との話し合いは過去六年間の馬政権で円滑化せず、国内の合意形成は難しいばかりか、馬の指導力は限定的である」(英誌『エコノミスト』、2014年3月29日号)。
(読者の声1)貴誌通巻第4196号(4月2日付け)のドイツにおける習近平の記事ですが、メルケル首相は、首相官邸に住んでいないはずで、彼女が夫と住んでいるのは、街中のフラット。警官が見張っているのを見たことがあります。
でも中国の主席を案内できるようなところではなさそうに見えましたので、そういう時は首相官邸を使うのでしょうね。
とにかく習近平の訪独のニュース、ドイツ国内ではすごかったですよ。何様が来たかという感じ。ドイツの政治家は、畏怖の念を持って接しているように見えました。ドイツ人って、中国人に劣等感があるのかしらと思いました。中国経済が後退するような話は、一切報道されません。脱原発と同じで、ドイツ人は都合の悪いことには目を瞑って、一丸に突き進んでしまうのでしょうか。今、ドイツ人は、脱原発にはつくづくうんざりしていますので、中国との商売も、そのうちそうなるかも。
ところで中国の人民元がEUで初めて、フランクフルトで、取引の通貨になったというのですが、経済のことが分からないので理解できません。これはフランクフルトの証券取引場で、人民元を売ったり買ったりできるということですか? 
日本円もフランクフルトの取引通貨ですか? ロンドンやパリも、人民元の取引センターになろうと躍起になっているそうですが、人民元の取引場になると、何がうまみなのですか? 
ひょっとして、中国経済が崩壊するとして、取引場は大きなリスクを受けるということはないのですか?人民元で決済をしようというのは、中国の経済に対する信頼を意味するのでしょうか。(EK生、在独)
(宮崎正弘のコメント)後者に関してですが、ロンドンは例によってウィンブルドン方式(場を貸してテラ銭を稼ぐ)が最大の動機でしょう。香港の延長です。
フランクフルトが人民元に市場を開いたということは、人民元とユーロ通貨の直接取引ができることを意味し、経済的には画期的なことです。
日本でも人民元は為替取引されていますが、インドルピー、豪ドル、インドネシアルピーと同様な「アジア通貨」として一括扱いです。
「通貨スワップ」は微々たるもの。喧伝されたような、「通貨スワップ」で人民元と決済しているのは香港のほか、マレーシア、ブラジル、ロシア、タイくらいです。しかし取引額は伸びていませんね。
貿易決済をお互いの通貨で直接することは、従来のドル基軸を脅かすわけですから、米国は苛立つでしょう。まして人民元は世界通貨の基軸となるかと言えば、実現不可能です。人民元は信頼性に問題があり、むしろ現在は暴落気配です。日本は日米同盟の手前、ドル基軸を脅かすような野放図な取引の段階に人民元は発展しません。
基本構造として、中国は人民元の世界通貨化、つまりドル、ユーロに次ぐハードカレンシーの座をねらった訳ですが、三年前まで盛んに主張していたIMFにおけるSDR(特別引き出し権)への人民元参入は、まだ実現せず、しかも望み薄。
それより、人民元はドル基軸にビルトインされてしまった。ドルの罠に嵌ったわけで、これを確認してドイツは人民元との為替取引の市場を認可したという順序でしょう。きっとドイツは人民元取引に上限枠をはめている筈ですから人民元暴落となっても損害は微々たる範囲にとどまるだろうと予測されます。

杜父魚文庫

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