15810 巨大化する中国に幻惑されるアメリカ  加瀬英明

■アメリカが中国に靡(なび)いている
昨年、中国の貿易総額が4兆1千6百万ドルに達し、アメリカの4兆ドル弱をはじめて上回って、世界一となった。アメリカは8年前まで127ヶ国にとって最大の貿易相手だったが、今では76ヶ国にまで減り、中国が124ヶ国にとって最大の貿易相手となっている。
ワシントンは、中国の目覚ましい興隆によって眩惑されている。今後も中国が巨大化してゆき、日本が力を衰えさせてゆくという見方が、政権、議会、シンクタンク、マスコミによって共有されている。テレビ、新聞に、中国が取り上げられない日はないが、日本の記事は少ない。
どうして、アメリカは日本よりも、中国に魅了されるのだろうか?
昨年12月に、アメリカは中国がわが尖閣諸島の上に、防空識別圏を設定するという暴挙に出ると、中国の措置を受け容れられないといって、形だけ反発した。
同月中に、バイデン副大統領が日中韓3国を訪れたが、私はバイデン副大統領が中国に対して強い不満を表わすために、訪中をキャンセルするのではないかと、期待した。
だが、バイデン副大統領は日本の後で訪中して、習近平国家主席と会談し、中国が設定した防空識別圏を認めないと発言したものの、安倍首相との会談の2倍も時間をついやした。
中国が第2次大戦後、アメリカに門扉を開いたのは1972年の電撃的なニクソン訪中によったが、その10年後に鄧小平が開放経済に大きく舵を切って、アメリカの投資を受け入れるようになってからのことである。
アメリカは日本について、日本を占領以来知っていると思っているが、中国は未知な巨大な国であるうえ、急成長する経済に魅入られてきた。いま中国が国外で動かしている資金は、莫大なものだ。
アメリカ国民は中国に見果てぬロマンチックな夢を、清朝末期から描いてきた。
アメリカはどの国よりも商売熱心であり、通商を拡大することを、つねに求めてきた。大型帆(クリッパー)船が清国に航路を開くと、3億人(当時)の市場に憧れた。日本は小さな島国で、市場を期待できなかった。
それに中国をキリスト教化する夢を描いた。中国人は続々と入信したが、日本では宣教師が献身的に努力したのにもかかわらず、ごく少数の者しかキリスト教を受け容れなかった。
私はニクソンの後を継いだフォード大統領と、親しかった。キッシンジャーはフォード政権の国務長官もつとめたから、何回かフォード大統領とともに、会食した。
私はキッシンジャーに、なぜアメリカ人は日本人よりも、中国人を好むのだろうか、たずねた。すると、「中国人は意見をはっきりという。そして論理的だ。あなたがたは黙ってばかりいて、いったい何を考えているのか、よく分からない」と、いった。
アメリカも、中国も異民族が行き交い、競うから、論理を駆使して相手を言い負かさねばならない。だから、どちらも声が大きい。日本人の曖昧な和を、理解できない。食事の嗜好が油っぽいのに対して、和食は淡泊だ。日本人は何事についても控え目だ。
アメリカ人と中国人は北京の故宮のように大きなものや、贅を凝らしたものを好むが、日本人は伊勢神宮や桂離宮のように、簡素で質素なものを尊ぶ。
アメリカ人と中国人は、拝金主義者だ。富を誇示する。中国の友人から旧正月に賀状が送られてきたが、「金運 福運」と願ってくれた。金が何よりも大切なのだ。人生で快楽を追うところも、日本人と異なる。
日本人は西洋化するまでは、アメリカ人や中国人と違って、金銀宝石といった見よがしのものを疎(うと)んだ。派手な色も嫌う。
アメリカ人は日本人よりも、中国人に近い。日本は異質な文化なのだ。
杜父魚文庫

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