■悪夢の「中露同盟」は幻想ではなくなった?プーチン大統領、五月に北京訪問。ガス代金の難題を決着へ
いずれもウクライナ問題が契機となった。米国はロシア制裁に中国が加わるよう、三月から「水面下で工作してきたが、失敗に終わった」(英語版プラウダ、4月24日)。
そればかりか中国はロシアとの関係をさらに緊密化させる方向へ梶を切った。
オバマ訪日で「尖閣諸島は日米安保条約の防御対象」という確約を取り付けた日本だが、これは米国が切ったカードのなかでも対中戦略の文脈からは、切りたくないカードだっただろう。これを取引条件とするかのように、TPP妥結をもくろんだホワイトハウスは、日本側の頑強な抵抗にあって、ややゲームの先行きがわからなくなった。
中国はロシアを制裁する欧米日に加わらないことで、プーチンに大きく政治的貸しをつくったが、かわりに獲得したものは何か?
第一に揉めに揉め続けているガス供給の価格で折り合いがつきそうな気配である。中国が焦る理由は大気汚染、石炭発電依存を構造的に改編し、ガスへの切り替えを急ぐという切羽詰まった理由がある。
しかし原油供給をロシアからパイプラインで輸入していても、ガスはロシア国営「ガスプロム」が値引きに応じないため、メドベージェフ首相が訪中しても、決着しなかった。ウクライナ問題で新しい顧客獲得を急ぐロシアは、米国のシェールガスの脅威も加わってきたため、価格でおりあう可能性が出てきたのだ。
第二に中国が得るのはロシアが出し渋ってきたジェット戦闘機の新技術、武器システムの向上にロシア軍事技術が欠かせないが、これも中国が有利な環境に変わりつつある。
第三はシベリア開発、とりわけ極東部の経済工業化がプーチンの喫緊の課題である。
ウラジオストックのAPEC開催以後も、期待されたほど極東部の開発は進んでいない。この隙間に中国は「農業進出」をはたしており、じつに42万ヘクタールの土地をレンタルし、農作物を栽培してきた。
これは中露双方に裨益するが、ロシアの懸念は極東シベリアにおけるロシア人の減少とは対照的に農地へ出稼ぎで入り込んだ中国人が不法滞在し、シベリアからウクライナへ流れ込んでEUへの密航ルートである。
いずれにしてもオバマの弱腰外交の付けが、おもわぬ方面で期待とは逆の反作用を産んでいる。それにしても外交にしたたかな露西亜と中国。狐と狸の化かし合いは今後も続く。
杜父魚文庫
15846 オバマの失策が中露関係を深化させた 宮崎正弘

コメント
川口マーン惠美さんとの共著、買わせて頂きました。結構目立つところに陳列されてて、嬉しい限りでした。
執筆活動、講演活動、テレビ出演など、これからも応援しています。