■自分は清海鎮の経営に関わっていない 趣味の写真を撮っていて所在は不明
【ソウル】沈没した韓国旅客船の運航会社を支配する一族の長が28日、事故後から守っていた沈黙を破り、自分は同社の経営に関わっていないと明言した。
事故後の早い段階から、韓国では兪炳彦(ユ・ビョンオン)氏(73)が関心を集めていたが、同氏は公の場から姿を隠していた。検察当局が4月16日の「セウォル号」沈没事故の捜査を進める中で、同氏とその一族には禁足令が出されている。同氏の自宅や仕事に関係する場所では家宅捜索が行われた。28日には同氏の息子たちの自宅などにも捜索が入った。
兪炳彦氏は、1987年に32人の信者が集団自殺したことで捜索を受けた教会の設立者の1人として知られる。裁判記録などによると、同氏は会社倒産から立ち直ったり、横領の罪で実刑を受けたりしたという経歴の持ち主。最近の同氏についてはほとんど知られていないが、302人の死者・行方不明者を出した客船事故のあと、再びメディアに注目される存在となった。
同氏の2人の息子は、セウォル号を運航していた清海鎮海運の過半数の株式を持っている。兪炳彦氏と息子らのコメントは得られていない。
■韓国の沈没事故、帰り待つ黄色いリボン
兪炳彦氏はニューヨークからの26日付の記者発表で、沈没事故で「死亡者が出ていることにショックを受け、深い悲しみに包まれている」と述べた。また、同氏のPR会社のマネジングディレクター、マイケル・ハム氏によると、発表は「兪氏は清海鎮の経営や日常の運営に全く関与していない」としている。
ハム氏によると、兪氏は「この4、5年は毎日」、趣味の写真を撮っているという。当局は、同氏が今どこにいるのか分からないとしている。
沈没したセウォル号の乗客の捜索活動は28日も悪天によって進展しておらず、船内で見つかったのは1遺体だけだった。これで死者数は188人、行方不明者は114人となった。
現場付近は26日から強風と雨に見舞われている。捜索本部の広報担当者によると、一部のダイバーは何度も潜っているうちに減圧症にかかったという。
韓国の黄教安法相は28日、議会の委員会で、捜査の結果次第では同国の海運業界の総点検が必要になると述べた。同法相は「われわれは海運業界のいかなる構造的問題も調べ、同様の惨事を再び起こさないために法的枠組みを点検する」と語った。
同国海洋警察は28日、何百人もの乗客が船内に取り残されている中を、傾いた船から下着姿で出てきたイ・ジュンソク船長の姿をとらえたビデオを公開した。これは捜索隊員が撮影したもので、全国にテレビ放映され、救出された人や国民の怒りをさらに買うことになった。15人の乗組員が乗客救出を怠った罪などで逮捕されている。
韓国金融監督院(FSS)への報告によると、兪炳彦氏の2人の息子は、清海鎮海運を傘下に置くアイ・ワン・アイ・ホールディングス社の株式38.88%を所有している。清海鎮の弁護士は先週、事故を謝罪し、責任が明確になれば、オーナーは遺族への補償のためにあらゆることをすると述べた。兪氏はアイ・ワン・アイやその関連会社のオーナー、あるいは株主としては登録されていない。
同氏は、ソウルに本拠を置く福音バプティスト教会の共同設立者の1人。同氏は、87年に32人の信者がソウル南部の龍仁で、縛られ、猿ぐつわをはめられて死んでいるのが発見されて注目を集めた。捜査が行われたが、教会や同氏、その他の教会メンバーが起訴されることはなく、事件は集団自殺ということで幕となった。
92年には同氏は自分の事業のために教会基金を横領したとして有罪となり、4年の実刑を受けた。
同氏は健康関連製品やソウルを流れるハン川でのフェリー運航を中心とした事業でビジネス帝国を拡大し、のちには海上運航も行ったが、運航会社は97年に倒産した。その資産は2年後に清海鎮に吸収された。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
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