プチン大統領のロシアって、いったい、どんな国なのだろうか?
正式な名称は、ロシア連邦だ。連邦の傘下に、およそ80の共和国、自治州、自治管区があって、160以上の民族をかかえ、100以上の言語が話されている。
ロシアは先端兵器をつくっているが、他にみるべき工業製品がない。世界で“メイド・イン・ロシア”のラベルがついた消費財を、見かけることはない。私はロシアを、採集・狩猟経済の国と呼んでいる。
外貨を稼ぎだしている産品といったら、石油、天然ガス、キャビア、ウォッカ、貂や、熊の帽子や、毛皮といったように、採集・狩猟経済の時代に属している。
ロシア経済は、うまくいっていない。原油価格が高止りだったあいだは、うけに入っていたものの、このところ振わない。プチン大統領の人気に、翳りが生じるようになっていた。
私はソチ冬季オリンピック大会の開会式の演(だ)し物を、テレビでみて、ロシア人が自国の歴史に強烈な誇りをいだいているのを、あらためて痛感した。
今回、プチン大統領がウクライナから、クリミアを強引に捥ぎ取ったのに対して、中華思想に似た大ロシア主義と、しばしば外から侵略を蒙ったことに由来する被害意識と、西側に対する劣等感が入り混じった、ナショナリズムが燃えあがった。
プチン大統領は鶏小屋を狙う、鼬(いたち)のような眼をしている。大統領になった時から、「20世紀の最大の悲劇は、ソ連が解体したことだ」と、公言してきた。そして中央アジアからウクライナまで網羅する、新ソ連版の「ユーラシア連合」を構築しようとしていた。
プチン大統領をみていると、遠大な計画があるように思えない。出たとこ勝負で、行動する。
2月にウクライナの首都キエフで、せっかく手懐けたヤヌコビッチ大統領を、民衆が立ち上って、追放した。そのために、プチン大統領はウクライナを、丸ごと「ユーラシア連合」に取り込もうとしていたところだったから、かっとなって、ロシア住民が60%以上を占めるクリミアを、ウクライナから切り取ることを決めたのだろう。
ロシアでは、プチン大統領の支持率が急上昇した。
アメリカ、EU(ヨーロッパ連合)が、猛反発した。「新冷戦」といった警告がマスコミを賑わせたが、大企業がロシアに投資しているために、厳しい経済制裁を加えたくないので、プチン大統領の側近たちに、入国ビザを発給しないなどの軽いものになった。
アメリカとEUが恐れているのは、ロシアがクリミアに味をしめて、やはりロシア住民が多い、ウクライナ東部を奪うのではないか、ということだ。そうなったら、「新冷戦」に近い状況が生まれて、ロシアに対してもっと重い制裁を、加えなければならない。
だが、プチン大統領はクリミアを盗んだために、大損したのではないか。アメリカ、EUがどのように騒ぎ立てても、プチン大統領がクリミアを吐き出すことは、ありえない。
ウクライナは貧しいが、人口が5000万人近い、旧ソ連のなかでもっとも重要な国だ。クリミアを取り上げたために、ウクライナは二度と、親ロシア政権を持つことがあるまい。「ユーラシア連合」は、ウクライナ抜きでは、みすぼらしいものにしかならない。
ロシア連邦の共和国、自治州のなかには、住民投票によって連邦から脱退して、独立したいと願っているところが、いくつもある。クリミアが住民投票によって独立したのを、前例にしたいと思おう。
アメリカのシェール・オイル・ガス革命によって、原油価格が下落してゆくことになるが、ロシアの将来は薄暗い。
杜父魚文庫
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