病院通いをするようになって、この十数年、認知症だなと思う患者が確実に増えている。相手からみれば、私も認知症の入り口に立っているのかもしれない。女房の方が一足先に認知症になってしまって、その介護に追われる日々なので、まだ認知症になってしまう余裕がないということか。
認知症というのは、ご本人にとっては案外、幸福なことだと思う。なにしろ十分前のことを覚えておれない。人は過去のことを小さい頭脳に山ほど記憶している方が不幸なのではないか。端から忘れる方が長生きできる。
そんなことを考えていたら、NHKが「緑茶の成分に認知症の予防効果か」というニュースを流していた。緑茶に多く含まれるカテキンなどの成分に認知症を予防する効果がある可能性・・・という金沢大学の研究グループの見解である。
私の母方の曾祖母・治家ばあさんは無類のお茶好き。士族の出が自慢の治家ばあさんは、静岡から取り寄せた茶箱の管理者だった。商家を取り仕切る商売熱心だから、客がくるとお茶を出して「そうでごわすな」と客の足止めに熱心だった。
その治家ばあさんに旧制中学の一年から四年まで同じ座敷で寝起きをさせられたから、私もひとかどのお茶好きになってしまった。やはり緑茶や番茶よりも”玉露”の方がいいと少年時代から生意気なお茶談義をするようになった。
母もお茶好きだったが、むしろ紅茶党。紅茶にも認知症予防のカテキンがあるから、72歳になるまで小説を書いていた。認知症にならずに亡くなったのは、幸福だったのか、不幸だったのか、フッと考える。
昔は高齢になればボケると信じられていた。父方の曾祖父は酒好きだったが、お茶は飲ませて貰わなかった。介護していた祖母が「おもらしするから」と言って水気のものは禁じた。それでフラフラと街中にでて酒屋で焼酎をひっかけるようになった。
この曾祖父は村会議員だったが、61歳の時に32歳の長男を失っている。それで一念発起して菩提寺に古澤家の過去帳を作りたいと願い出た。「この所以は、長男が不慮の横死を遂げ、人生元より厄小不定ながら、この惨事に遭遇し、一層深くこれを感じ・・・」と達筆で書かれた文章を読むと、後に酒びたりとなった事情が理解できる。
認知症なって過去の不幸を忘れたかったのであろう。昭和十一年十二月二十六日に88歳で亡くなった。戒名は「興善院快参寿翁禅居士」。私が菩提に建立した古澤家累代の墓に眠っている。認知症になって幸いだった人生と思いたい。
■緑茶の成分に認知症の予防効果か
<緑茶を飲む頻度が高い高齢者ほど認知機能が低下する割合が低くなったという調査結果を、金沢大学の研究グループがまとめました。研究グループは、緑茶に多く含まれるカテキンなどの成分に認知症を予防する効果がある可能性があるとしています。
金沢大学神経内科の山田正仁教授の研究グループは、認知症ではない60歳以上の723人を対象に緑茶を飲む頻度などをアンケートし、5年後に追跡できた490人について、認知機能の状況を調べました。
その結果、認知機能が低下し認知症の予備軍と言われる軽度認知障害や認知症と診断されたのは、緑茶を全く飲まないと答えたグループでは、138人のうち43人で31%、週に1回から6回飲むグループでは195人中29人で15%、緑茶を毎日飲むグループでは157人中18人で11%でした。
研究グループは、緑茶を飲む頻度が高いほど認知機能が低下する割合が低いという結果になったとしたうえで、緑茶に多く含まれるカテキンやミリセチンなどのポリフェノールの一種が、認知機能の低下を防ぐ効果がある可能性があるとしています。
山田教授は「緑茶に含まれる成分の研究を進めて、認知症の予防につなげたい」と話しています。(NHK)>
杜父魚文庫
16081 お茶飲みは認知症にならない? 古澤襄

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