■中国 ロシアにとって最大の貿易相手国
<[ロンドン 19日 ロイター]「中国は信頼できる友人だ。中国との協力拡大は、間違いなくロシア外交の最優先事項である」──。ロシアのプーチン大統領は上海での首脳会談を控えた19日、このように語った。
ロシアと中国の2国間関係を評価する場合、大半は歴史的な国境紛争や毛沢東主席とフルチショフ首相の対立、価格面で毎年折り合いがつかない天然ガス契約といったことが挙げられる。
しかし、こうしたことは基本的にすべて過去の話であり、2国間で増大する共通の利益を無視するものだ。エネルギー、貿易、安全保障、外交面における密接な2国間関係の構築は喫緊の問題である。
エネルギー分野では、ロシアと中国はほぼ完璧な組み合わせと言える。ロシアは世界最大のエネルギー純輸出国、中国は第2位(2011年)の純輸入国であり、両国は国境を接しているからだ。
中国はすでにロシアにとって最大の貿易相手国であり、2013年の2国間貿易額は900億ドルに上る。新華社によると、両国はこの額を2020年までに2000億ドルにまで増やすことを目指している。
オバマ米政権のアジア重視への転換とエネルギー調達での変化は、中国とロシアを接近させている。
東・南シナ海で領有権問題を争う中国と、ウクライナ情勢をめぐり西側と対立するロシアはともに孤立状態にあり、米国が築いている同盟体制に対抗すべく友人を探している。これは典型的なパワーポリティックスであり、つまり「敵の敵は友人」なのだ。
ロシアと中国の海軍は20日、東シナ海で7日間の日程で合同演習を行う。新華社によると、2012年以降では3度目の合同軍事演習で、西側諸国との関係が悪化するなか、ロシアと中国の間で高まる協力関係を強調するものだと言える。
<友好関係>
中国とロシアの間に目立った領土問題は存在せず、友好関係を邪魔するものは何もない。一方、両国はそれぞれ日本と尖閣諸島問題や北方領土問題を抱えており、それが彼らに共通の利害要因を与えている。
また、アフリカや中東、中南米といった他の地域でも、ロシアと中国が対立するような大きな問題はない。大部分において、両国の利益は一致するか、もしくは異なった分野にあり、友好関係を容易に維持できる状況にある。
エネルギーにおいては特に双方の利益が一致する。ロシアが輸出先の多様化を進めねばならない一方、中国はマラッカ海峡のような輸送の難所を通過せずに済むエネルギー調達先を必要としているからだ。
プーチン大統領は19日、中国の記者に対し、天然ガス契約に向けた準備は「最終段階」に入ったことを認めた。
<欧州からの脱却>
ウクライナ危機を抜きにしても、ロシア産の石油・ガスの輸出先は欧州に集中しており、価格交渉で弱い立場を強いられてきた。
米エネルギー情報局(EIA)によると、2012年にはロシアの石油輸出先は欧州が80%を占め、アジアはわずか18%だった。また、同時期に輸出されたロシアのガスの大半も欧州向けだった。
欧州だけに大きく依存するのは、戦略的にも商業的にも理にかなっていない。顧客が多様な供給源を必要とするように、生産者も複数の顧客を持つことで安全を得られる。
ロシアは1960─70年代の冷戦時代に築いたパイプラインを通して自国の石油とガスのほぼすべてを西へ輸出し続けているが、世界経済の主なエネルギーの流れは、アジアの産業化と北米のシェール革命の結果、東へと向かっている。
21世紀の主なエネルギー輸入地域である欧州とアジアの中間というロシアの位置を考えると、同国が急成長するアジアの市場への輸出を増やし、よりバランスの取れた戦略的なアプローチが考えられる。
中国にガスを供給するためには、パイプラインや液化施設の新設にばく大な費用がかかるだろう。だが、ロシアはそのような道を避けて通るわけにはいかない。欧州に依存し続ければ、ロシアのガス・石油産業の収益は中期的に圧迫リスクにさらされることになるからだ。
<機は熟したか>
一方、中国にもロシアからエネルギーの輸入、特にガスの輸入を増やしたい理由がある。中国経済は現在、国内の石炭と輸入した石油に大きく依存している。
だが、石炭火力発電は深刻な環境汚染を引き起こしており、温室効果ガスの排出量増加の原因となっている。また、輸入されるほぼすべての石油はマラッカ海峡や東・南シナ海を渡って輸送されており、米国とその同盟国と衝突した場合には、中国海軍もそうした海上交通路での航行を保証できない。
ロシアからパイプライン経由で石油とガスを輸入することは、中国のエネルギー安全保障の強化につながる。実現すれば、不安定な海上輸送ルートを通じたエネルギー輸入を削減できる。また、オーストラリアなどのガス供給国や中東の石油輸出国との間では、有利な形で交渉を進めることができるようになるだろう。
これまで、中国とロシアは価格面で折り合わず、ロシア産天然ガス契約に向けた交渉は10年以上にわたり平行線をたどっていた。しかし最近の国際情勢により、両国は歩み寄り、契約締結に至るかもしれない。欧州がロシア産ガス輸入削減を検討するなか、ロシアはほかにも輸出先があると示すことが急務であり、中国も周辺国との関係が急速に悪化するなか、新たな同盟国との関係を発展させる必要に迫られている。
より大きな戦略的背景に加え、中ロ首脳の緊密な関係は、ガス契約締結の機が熟したことを示している。(ロイター・コラム BY John Kemp)
杜父魚文庫
16119 孤立する中ロ、エネルギーで結束強化 古澤襄

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