■スマホ掘り返した捜査員を称賛
<遠隔操作ウイルス事件は、冤罪(えんざい)を訴えてきた片山祐輔被告が一転して関与を認める劇的な展開となった。「真犯人」を装った自作自演のメールに追い詰められた末の“全面自供”に、弁護士は20日の記者会見で複雑な心境をみせた。
「死にきれなかった」
「先生、すいません」。片山被告から佐藤博史弁護士の携帯電話に連絡があったのは19日午後9時半ごろ。片山被告が荒川河川敷にスマートフォン(高機能携帯電話)を埋めたとされる報道を見て、「本当のことだったので死のうと思ったが死にきれなかった」と動転した様子で語った。
片山被告は同日午前10時20分すぎに連絡を断った後、東京都西部の高尾山を放浪してベルトで首をつろうとしたが失敗。下山して駅のホーム下に入り込み電車に飛び出そうとしたが果たせず、佐藤弁護士を頼って電話をかけたという。
「もしかしたら会えないかもしれない」と気弱に話した片山被告だったがその後、新宿のホテルに宿泊。翌20日午前6時15分頃、「先生に会いたい」と電話をかけ、午前7時すぎに面会した。
佐藤弁護士は「酒を飲んで酔っており相当衰弱しているようだったが落ち着いていた」と様子を話す。「自分は平気でウソつける」と自嘲気味に語った片山被告。佐藤弁護士は告白に衝撃を受けつつ「済んだことは仕方ないが死ぬことは考えるな」と応じるしかなかった。
■保釈後も行動確認
片山被告を窮地に追い込んだ「真犯人」を名乗るメール。平成24年10月の犯行声明メールで「世間を騒がすことが目的」などと書かれていたことから、警視庁は片山被告が愉快犯的な動機を持っているうえ、証拠隠滅の恐れがあると判断。3月の保釈以降、ひそかに行動確認を続けていた。
片山被告は15日夕、江東区内の自宅を出て、徒歩で約5キロ離れた荒川河川敷に向かい、突然、穴を掘るしぐさをした。真犯人のメールが16日午前に届いた後、警視庁が土を掘り返すと、メールの全文が保存されたスマホが出てきた。スマホは身分確認が不要なプリペイド(料金前払い)式のもので、秋葉原で購入していたことも分かった。
片山被告の「現実空間」でのミスは、逮捕のきっかけとなった江の島で猫と戯れる様子が防犯カメラに捉えられたのに続き、2度目。捜査関係者は「必ず何かをやると思っていた。警戒を怠らなかった結果だ」と強調する。
片山被告は佐藤弁護士に「2、3回下見し、誰もいない安全な場所ということで河川敷を選んだ。捜査員の追跡には気付かず、スマホを見つけられるとは思わなかった」と驚いた様子で話したという。
■一転して捜査称賛
「こんな形で終わったのは驚きだが天は見ていたということだ」と20日の会見で唇をかんだ佐藤弁護士。栃木県足利市で女児が誘拐後に殺害された足利事件で再審無罪判決を勝ち取ったことで知られ、片山被告が逮捕された4日後に主任弁護士に就任した。
繰り返し開いた記者会見では「片山被告にはどこから切っても犯人らしさがない」「警察、検察に有利な状況はない」などと舌鋒(ぜっぽう)鋭く捜査批判を続けた。
だが、その勢いは20日の会見では影を潜め、スマホを掘り返した捜査員の判断を「すばらしい勘だ」と称賛。「『やっていない』という人を信じるのが職業倫理だが、完全にだまされたということにはなる」と肩を落とした。
ただ、「真犯人メールがなかったら、かなり自信を持って弁護していた。(真犯人と)早い段階で明らかになってよかった」とも話し、複雑な心境を吐露する場面も見られた。(産経)>
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