16286 ウクライナ市民数千人が国境を越えロシアに流入   古澤襄

■ロシアのメドベージェフ首相が警告
<【モスクワ】ロシアのメドベージェフ首相は5日、ウクライナ政府が同国東部の分離主義勢力に対する軍事作戦を展開していることで、数千の市民が国境を越えてロシアに逃げ込んでいると述べた。しかし、ウクライナ当局は難民の危機の証拠はないと、これを否定した。
ロシアはウクライナの軍事行動を人道問題として扱おうとしており、非戦闘員が逃れられるように「回廊」を設けるべきだとの決議案を国連安保理事会に提出。市民に対する軍事作戦を停止するようウクライナに要求した。西側諸国はこの提案に冷淡な反応を示し、市民が越境してロシアに逃げ込んでいるとのこれまでの主張にも懐疑的だ。
メドベージェフ首相は、ロシアにとどまりたいとする子供やその家族が多く流入しており、既に4000人が亡命を申請したと述べた。同首相は、「非常に困難な状況にある」難民を受け入れている州を支援するよう指示したとしている。
ウクライナと接するロストフ州の知事はインタファクス通信に対し、2600人分の仮設住宅を用意したと語った。ロシアの子供の権利に関するオンブズマンは4日、24時間に7000人のウクライナ人がロストフ州に入ってきたと明らかにした。ある現地キャンプの責任者は、2日以来151人の子供を含む275人を保護したと話した。
ウクライナの国境警備は弱まっているようで、国境警備隊員は2つの駐屯地を放棄したとの情報がある。ただ、ウクライナ国家国境警備隊はロシアへの市民流出が大幅に増えていることはないとしている。

メドベージェフ首相は、ウクライナ政府と、同国軍の東部での行動は抑制されていると称賛した先進7カ国(G7)首脳を批判。「ウクライナ当局は人道的な問題を見ないようにしていて、難民はいないとさえ言っている。これはうそだ」とし、「いわゆるG7はウクライナ軍の自国民への攻撃を『抑制されたアプローチ』とさえ言っている。皮肉きわまりない」と述べた。
ロシアの有名な難民支援グループ「市民支援」のSvetlana Gannushkina代表は、難民がロシアに入っている兆候はあるが、これが人道的危機になるとの政府の強い警告は政治的なもののようだと話した。同代表は「もちろん難民はいる。戦争が起きているためロシアに逃げてきたのだ」とし、「これはシリアとは違う。最大でも8000人だ。トルコのように80万というような数字ではない。何が緊急事態なのか。これは政治的なものだ」と語った。
ロシアはこの難民問題では強硬姿勢を取っているが、外交面では平和的な姿勢を示し、3カ月前に本国召喚した駐ウクライナ大使を戻して、7日のポロシェンコ・ウクライナ大統領の就任式に出席させることを明らかにした。カラシン外務次官は「この前向きなシグナルが、ロシアには協力の用意があり、ウクライナの有権者の選択を尊重することを示すものだと的確に受け止められることを期待する」と述べた。
ロシアの国境警備隊は3月、ヤヌコビッチ大統領(当時)の追放に至る騒乱で多くのロシア系住民が国境を越え、亡命を申請した人の数は14万3000人に上ると主張していた。しかし、この主張を大々的に伝えていたロシア国営テレビは難民の映像を流さず、ある時には危機を示すために、ウクライナからポーランドに入ろうとする車の列を放映した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は5月20日、推定1万人のウクライナ人が難を逃れようと国内で移動したが、「外国に亡命を求めている人の数は依然少ない」との報告書を発表した。報告によると、移動を選んだ人たちのほとんどはクリミア半島に住んでいたタタール人で、同半島のロシア編入に伴い、迫害や治安の悪化を恐れてウクライナ中部や西部に移り住んだ。
一方、ウクライナの対ロシア国境周辺の状況は5日、悪化したようだ。ウクライナ国境警備隊はルガンスク州にある、国境には接していない全ての基地を閉鎖したと明らかにした。これは、武装勢力がいくつかの基地を包囲し、孤立化を狙っているためだという。人員や装備は、より国境防衛に適した駐屯地に移したという。ウクライナ当局は、ロシアが戦闘員や武器を国境を越えて送り込んで東部の武装勢力を支援していると非難し、ロシアはこれを否定している。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
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