16389 イラク危機、中東全体に影響    古澤襄

■米国、イランが軍事加入すれば、世界的にスンニ派の怒りを買う
アラブ諸国の当局者は15日、イラクで過激派武装勢力が南進していることは中東の安全保障にとって脅威だとしたが、一部では、米国あるいはイランがシーア派イラク政権を守るために軍事介入をすれば、世界的にスンニ派の怒りを買うことになる恐れがあると警告されている。
イラク危機が地域全体に広がる恐れから、ペルシャ湾岸諸国の株価は15日、最大5%下落した。イラク政府軍とほとんどがシーア派から成る義勇兵が首都バグダッドのほか、シーア派住民が多い都市、それに南部の油田地帯を、イラク政府が言うところの「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」率いる武装勢力から守るために集結した。これら諸国の市場は日曜日も開いている。

石油先物は先週、武装勢力がイラクの一部州を支配下に置き、石油センターを攻撃したのを受けて4%上伸した。
当局者によると、イラク政府軍は15日、誤ってクルド自治政府の兵士少なくとも2人を殺害し、両政府間の基盤がもろい連合がさらに揺らぐ可能性がある。一方、スンニ派の武装勢力は15日、捕虜にした政府軍のシーア派兵士を大量処刑している場面だとする複数の写真をインターネット上に公開した。
米国務省によると、バグダッドの米国大使館は警備を強化しており、一部の職員をバグダッドの外に避難させている。
イラクと国境を接するクウェートは、ISISがクウェートの油田地帯も含めて中東一帯に厳格なイスラム地域を打ち立てる地図を公表したのを受けて、強い態度を取るよう湾岸諸国に求めた。アラブ首長国連邦(UAE)の政治学者Abdulkhaleq Abdulla氏は「クウェートはここでは前線にいる。最も強い不安を抱く国の一つだ」と指摘した。
アルジェリアの外交官Ahmed bin Helli氏によると、イラク問題討議のために15日にカイロに集まったアラブ連盟の各国代表は、現状はイラクの歴史において「最も危険な」もので、地域全般の安保にとっても脅威だと述べた。22カ国が加盟する同連盟は、イラクのシーア派、スンニ派、その他の対話とイラクの民主化へのシフトを要求した。
ISISが先週、イラク最大の都市の一つモスルを占領してから中東で警戒が高まっているにもかかわらず、アラブ諸国は公には沈黙を守り、あるいはイラク人口の約3分の1を占めるスンニ派の怒りを鎮めるための挙国一致内閣の樹立を求める程度の動きしか見せていない。
中東で最も力があり、イラクとの国境にはハイテクフェンスを設けているサウジアラビアは、ISISの侵攻について論評していない。
ただ、サウジとカタールの新聞や有力者らは、シーア派を中心とするイラクのマリキ政権を倒す戦いにおける、ISISよりもスンニ派やその他の草の根的なスンニ派グループの役割を強調している。
ISISはソーシャルメディアで、その数百人の戦闘員たちが侵攻で主導的役割を果たしているとしているが、イラク西部のスンニ派部族の指導者らは15日、自分たちの戦闘員たちもスンニ派統治時代の兵力やその他の非ISISグループとともに戦っていると強調した。
あるスンニ派部族の指導者Khamis al Dulaimi氏は「ISISが戦いを主導していると言うのは誇張であり、マリキ政権に対する革命を中止させようとするものだ」とし、これはマリキ政権の下での11年にわたる「不公平と無視政策に対する反乱だ」と語った。
米当局者は過去数年間、マリキ首相は組織的にスンニ派を権力から排除しているとして、スンニ派のアラブ世界の指導者と同じ見解を表明している。オバマ政権は先週、米国がイラク政府を守るために介入するかどうかは、マリキ氏による政策見直しにかかっていると指摘した。
1990年のフセイン大統領によるクウェート侵攻の際に政治犯となったクウェート大学の政治学者Ghanim al-Najjar教授は「根本原因に対処する必要がある。これは対処可能だ」と述べるとともに、問題は「イラクの国内状況とその構図、それにイラク政府の排他性だ」と語った。
イラクのシーア派政権のために米国が軍事介入するのは誤りだと警告する声も聞かれる。駐米大使と国連大使を務めたカタールのNasser bin Hamad al Khalifa氏は「西側がマリキ政権支援の介入をすれば、全てのアラブ諸国、全てのイスラム教徒がそれを自分たち、およびイスラム世界への戦争と見なすことになるだろう」と述べた。同氏はあくまでも個人的な立場で話していると断っている。
同氏は、少なくとも一部の兵力をイラクに戻すことを要求している米国の保守派らに向けたメッセージの中で、「もう米国が関係することではない。助けたいなら、人々に圧力をかけて、(各グループの代表から成るイラク政府に)集まるように支援すべきだ」と述べた。
元在米サウジ大使館アナリストFahed Nazer氏は「米国の介入は国際テロ組織アルカイダの新兵募集にとって好材料になる」と指摘した。
サウジはシリア内の穏健反政府勢力に武器と資金を援助しているが、シリアとイラクの双方で活動しているISISについては、以前からテロリストだと非難している。サウジは5月、サウジ人のISIS新兵が国内で攻撃しようとしていると糾弾した。シリアのISIS戦闘員らは、サウジが支援するシリアの反体制派とサウジ政府の両方とも敵だとしている。
武装勢力の侵攻は続いている。Nazer氏によると、彼らは政府軍の武器庫を襲い、モスルの中央銀行施設から資金を奪い、政府軍が放棄した町々から戦利品を得ており、「何台かの重砲や最大4億ドル(410億円)の資金を手にした可能性がある」という。同氏は「これは誰にとっても悪いシナリオだ」としている。(米ウォール・ストリート・ジャーナル)>
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